有難迷惑

 藍繪らんかい正真しょうまは、袋を開けてみた。するとそこには、銀貨らしきもの三十枚。銅貨らしきもの百枚。形の不揃いな、粒銭と呼ばれるものらしきもの数百枚が入っていた。

 ただの善意にしては気前が良すぎるような印象もありつつ、この世界の相場を知らない藍繪正真としては、

『こんな小銭ばっかじゃらじゃら……押し付けられたってことかよ……』

 と、正直なところ<有難迷惑>と感じていた。銀貨らしきものを百円程度と感じたのだろう。なので銅貨らしきものは十円程度、粒銭は一円程度と。つまり精々数千円分だろうと。

『当面のメシ代ってことか……』

 という感じにしか思っていなかった。

 とは言え、紙幣というものが当たり前になったのも近代以降の話なので、ここではまだまだ硬貨という形の貨幣が一般的であり、当然、価値も異なる。

 それを知らず、宿を出た藍繪正真は、ただぶらぶらと町の中を歩いた。

 洗っても血が落ち切らなかったボロボロの服を着て、抜き身のままの剣を杖のようにして歩くその姿はさすがに誰の目にも異様にも見えたようだが、無駄に背が高いだけの痩躯の男では、およそその剣を振り回してどうにかできそうな印象がなかったからか、すれ違う者達は訝しげには見るもののさほど警戒はしていなかった。

 そんな訳で、哀れみさえ向けられつつもそれを察することもなく、町の様子を見て回る。

 着いた時には『これのどこが<町>だよ!?』と感じたながらも、中心部までくればそれなりに賑やかな印象にはなってきていた。

 人が行き交い、商店も並んでいる。それでも藍繪正真がイメージする町としてはやはり貧相ではあるが。

「ん……? あれは……」

 と、また武器屋があることに気が付いた。その武器屋は、剥き身の剣を杖のようについている彼に気が付くと、

「兄さん兄さん、いい剣があるよ。そんなボロいのじゃ役に立たんだろ。こっちのなんかどうだい? 軽くて丈夫で使い易いよ」

 そう言って、革製の鞘に納まった剣を少し抜いて見せてきた。なるほど確かに今持っている剣よりも細身で軽そうで、何より綺麗だった。だからつい、

「いくらだ……?」

 と訊き返してしまう。すると武器屋の主人らしき初老の男は、

「さすがお目が高い! 今ならその剣と交換で銀貨二枚だ! お得だよ!」

 満面の笑みで言う。それに対して藍繪正真は、

『銀貨二枚? 安っ! あ、そうか、百円とかじゃないのか。でもまあ、三十枚あるし、そのくらいなら…それにこいつ重いし……』

 などと考えて、銀貨二枚と持っていた剣とで、新しい剣を手に入れたのだった。


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