低能
デインに対して殺意を覚えつつも、
そうだ。必要とあればそれくらいのことはできるのだ。なのに彼は、前の世界でそうせずに、他者に向けて殺意を実行に移そうとした。
そのようにして殺意を抑えられるのであれば、前の世界でもしっかりと抑えておけばよかったのではないだろうか。
もっとも、向こうでは、殺意を抑えておく理由が既になくなっていたというのもあるのだろう。
藍繪正真にはもう、前の世界において失うものは何もなかった。
他人の命などどうでもいいし、しかも、自分がいた児童養護施設についても、
<凶悪な殺人犯を生んだ施設>
という形で世間から徹底的に攻撃されることを望んでいた。親と違って施設の場合はそこまで攻撃の対象にはならないかもしれないが、そういう形でも注目されて施設の実態がマスコミ辺りにすっぱ抜かれるか、施設の実情を知る者がネット上にでも情報を流してくれればいいと考えた。
藍繪正真にとってはそれこそが施設に対する<復讐>だった。
本当は自分を生んだ母親こそを苦しめてやりたかったが、死ぬより苦しい目に遭わせてやりたかったが、すでに死んでいるのならどうしようもなかった。だからせめて、あの施設の関係者を苦しめてやりたいと願った。
世間は、
『施設に恨みがあるんなら何で施設を狙わない!?』
などと言うだろうが、藍繪正真はそういう者達こそを<低能>と嘲笑っていた。
「恨みがあるから簡単に楽にさせたくないんだよ、そのくらいのことも分かんねーのか、バ~カwwwwww」
と。
それと同時に、
「赤の他人だからこそ殺しやすいんだろうが。どうせお前らも、見ず知らずの他人の命とか本当に大事になんか思ってないんだろ? 偽善者めwwwww」
とも思っていた。
が、正直、今はそんなことはどうでもよくなっていたようだ。
『とにかくどこかで風呂に入ってさっぱりしてメシを食ってベッドで眠りたい』
だけだった。
するとそんな彼の耳に、
「お、ここだここだ。シケた宿屋だがそれでもメシは出るし体くらいは休ませられるぜ」
というデインの声が届く。
「……」
やっとかと思った藍繪正真が顔を上げて見たそれは、
『これが宿屋……? 馬小屋とかじゃねーのか?』
と思ってしまうような酷く古くて汚い<小屋>だった。
さりとてそれも、清潔で小奇麗にしてないと客など寄りつかない前の世界のホテルなどを基準にするからそう見えるだけで、この世界ではこれくらいは<安めのホテル>程度のものではあるのだが。
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