グラディウス
「……」
「……」
トルカの町に着いた
それでもなお、旅人や通りがかる軍などを相手に商売している者も当然のようにいる。そういう者達は、上辺だけではありつつも歓迎もしてくれる。あくまで<金づる>としてだが。
と、
「お客さんお客さん、新しい武器は要らんかね?」
二人が前を通りがかった店の店主らしき老人が、愛想笑いを浮かべながら声を掛けてきた。分かる者には分かる、実に空虚な笑顔だ。相手を金づるとしか見ていないのが伝わってくる。
なお、藍繪正真やデインが携行している剣は、中世ヨーロッパを意識していると思われるフィクションによくみられる<バスタードソード>ではなく、<グラディウス>と呼ばれるそれによく似た、刀身が幅広かつ肉厚の諸刃の剣だった。並の人間では片手では振り回せないだろう。
加えて、グラディウスとしてはかなり刀身が長く、かつ刺突攻撃にも使いやすいようにと考えられてか、鍔の部分はバスタードソードのように<握り>がついていたので、やはり藍繪正真がいた世界のそれとは細かい部分が違っている。
もっとも、藍繪正真自身はそこまで詳しくないが。
「……」
デインの方はどうやら店主の魂胆を察しているのか、やはり酷く訝し気な表情だった。けれど当の藍繪正真の方はピンと来ていないようだ。元々他人を信じない人間ではあったものの、このあまりに異様な状況に舞い上がってしまっているのに加え、疲労困憊していることで頭が働いていないのだろう。いくら他人を信じないと言っても現代日本で生まれ育ったこともあり、どこかまだ『緩い』部分があるのだと思われる。
だからつい、興味を抱いた眼を向けてしまい、店主もそれを見逃さなかったようだ。『脈あり』と見てニヤリとほくそ笑む。
だがそこに、
「悪いな、間に合ってんだ」
デインが取り付く島もなく愛想笑いを返しながら手を振りつつ、歩みを止めず通り過ぎようとする。その後ろを、ヘロヘロになった藍繪正真が続く。
『なんだよ……新しい武器とか手に入れないのか……?』
そんなことを考えながら。と同時に、自分をロクに気遣うこともなく引っ張りまわすデインに、内心では殺意を覚え始めていた。
それでも、
『今はこいつを頼るしかないか……』
と自分に言い聞かせ、殺意を抑え、ついていったのだった。
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