出会い

 しかし五分も歩くと、藍繪らんかい正真しょうまは剣を持ち上げていられなくなった。無理もないだろう。彼自身はあくまで便利な現代日本で生まれ育ったのだから。

 剥き身のままで持ってきてしまった剣では肩に担ぐことすら危険だった。万が一にでもそんなことで命を落としては笑い話にもならない。だから杖のように地面に突き立てて体を支える。もちろんそのような使い方では切っ先が駄目になってしまうだろうが、他にやりようがなかった。


 一方、藍繪正真があてもなく向かっていた先で、地面に倒れ伏していた兵士の死体がもそりと動いた。いや、死んでいなかった、気を失っていただけかもしれないが、とにかく体を起こし、

「……」

 ぼんやりと自身の手を見つめていた。意識がはっきりしないのかもしれない。が、しばらくすると、

「ん……!」

 目に生気が戻ってきて、ぐい、と自身の膝に手をついて体を起こす。

 そしてぐるりと周囲を見回し、よろよろと歩いてくる人影に目をとめた。

 藍繪正真だった。

「よう、御同輩。あんたも仲間とはぐれたのか?」

 見渡す限り死体が転がるこの凄惨な光景にはあまりにも不釣り合いな、愛想のいい人懐こい笑みを浮かべて、剣の切っ先を地面に突いて杖にして歩いていた藍繪正真に声を掛ける。

「!?」

 突然現れた、粗末なとはいえ鎧らしきものをまとい腰に剣を差した見ず知らずの人間に、彼はビクっと体を竦ませて警戒の姿勢を見せた。

「……!」

 何とか剣を構えてみせたが、腰が引けていて実に不格好だ。およそ犬一匹殺せそうな印象がない。しかし、兵士らしき男は、

「まてまて、俺は敵じゃないよ。たぶん。仲間とはぐれて困ってたところなんだ。あんた、兵士じゃないだろ? 見かけない格好だから、旅人かなんかかな? それで戦に巻き込まれたってところか? 取り敢えず俺も町に戻ってそれから出直そうと思ってるんだ。そのついでにあんたのことも町まで送り届けてやるよ」

「……」

 藍繪正真に対してそう提案する。

 すると彼は、訝し気に兵士を見ながらも、

『……当てもないしな……』

 と算段が働いたようだった。

「分かった……」

 とは応えつつ、同時に思う。

『こいつ……日本人じゃないよな……? なんで日本語で話してんだ……?』

 という疑問が頭をよぎっていた。だがよく見れば、兵士の口の動きと彼が聞き取っている言葉が合ってなかった。いなかったのだが、そこまで気付くほどの余裕はなかったようだ。

「俺はデイン。クレラ村のデインだ。あんたは?」

「……藍繪正真……」

「ランカイショウマ? 変な名前だな。まあいいや。ついて来いよ」

 こうして藍繪正真と<クレラ村のデイン>は出会ったのだった。




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