神罰 ～魔王生誕～

坩堝

　こうして、訳も分からず何本もの槍に体を貫かれて、藍繪（らんかい）正真（しょうま）は死んだ。

　戦場に転がる無数の死体。藍繪正真もその一つになった。

「何だこいつ？　変な格好しやがって」

「かまわねえ。どうせ敵だ。敵じゃなくてもこんなところにいるのが悪い」

　彼を槍で貫いた、血でぬかるんだ泥で人相さえ分からないくらいに汚れ、もはや申し訳程度に体に絡み付いているだけの鎧の残骸らしきものを纏った男達は、まるでゴミを見るような目で倒れ伏した藍繪正真を見下しながら吐き棄てた。

　そこに、

「おい！　ぐずぐずするな！　手を貸せ！」

　と苛立ち交じりの声が掛けられ、

「うるせぇ！　命令すんな！」

　などと悪態を吐きながら男達は槍を握り直し走り出す。血と泥でぬめる地面と死体の区別も付けず、ぐちゃぐちゃと湿った足音をさせながら。

　そうだ。そこは戦場なのだ。談笑などしている暇はない。敵を殺さなければ自分が死ぬ。と言っても、もはや誰が敵で誰が味方かも判然としない混沌とした乱戦の坩堝（るつぼ）だったが。ある程度は揃いの鎧なども支給されていたものの、血や泥にまみれ壊れ外れ、すでにどちらがどちらかもよく分からない。

　そんな戦場の真っ只中に藍繪正真は放り出され、突然現れた彼に反射的に襲い掛かった兵士達によって滅多刺しにされたということだ。

　戦場では躊躇った者から死んでいく。躊躇わなくても運の悪い奴は死ぬ。だから突然現れた＜そいつ＞が何者だろうが、兵士達には何も関係なかった。敵か味方か分からないからとにかく殺しただけだ。殺される前に。

　そして、藍繪正真は運が悪かったから死んだだけだ。

　そんな風にしか考えない。

　しばらくすると動く者は誰もいなくなり、ただ死体だけが地面を埋め尽くす凄惨な光景の中に、藍繪正真の死体もあった。

　いや、＜死体＞ではなかった。

　なにしろ、指がぴくぴくと動いているのだ。そしてゆっくりと腹や胸が上下し始める。

「う……ゴォエッッ！　ッガ、ハッ！」

　血の塊を吐き出し、藍繪正真は咳き込んだ。

「ごっは……っ！　がはっっ！」

　何度も何度も咳き込んで、喉に溜まった＜血餅＞を吐き出しつつ、新鮮な空気を求めて彼は必死に喘いだ。

　何本もの槍に体を貫かれたというのに、なぜか死ななかったのだ。着ていたシャツはもはやただのボロ布と化していたものの、そこから覗く肌は血に濡れていたものの、不可解なことに＜傷＞はなかった。

　何本の槍の穂先が体の反対側にまで突き抜けるまで容赦なく刺されたというのに、その痕跡がない。

　ないのである。