神の導き
「~♪」
なのにその時、自分が何か異様な雰囲気に包まれていることに気付き、
「!?」
ハッと身構えた。
普通なら通行人が好き勝手に行き交っている筈の歩道に一人もおらず、やや離れたところで立ち止まっているのだ。
まるで何かから逃れようとするかのように。同時に、スマホを掲げて写真や動画を撮っていると思しき者もいる。
「え……?」
そして碧空寺由紀嘉が思わず振り返った時、そこに男が立っていた。
パッと見には成人男性であるのは分かるのだが、年齢がまるで分からない。若いようにも見えるし、初老だと言われてもそうかもと思ってしまうような、痩躯の、無駄に背だけ高い男だった。
見た目で年齢がよく分からなかったのは、造形の所為だけではない。男の表情があまりにも異様だったからだ。醜く歪んだそれは、もはや人間離れしているとも言えるだろう。
そして碧空寺由紀嘉は見た。掲げられた男の右手にギラリと光るものが握られているのを。
「キャーッッッ!!」
突然のことに呆然としてしまっていた碧空寺由紀嘉とは別の女の悲鳴が、その場に響く。しかしそれは、藍繪正真を思いとどまらせることはなかった。それどころか逆に、彼の強張った筋肉のスイッチを入れさえした。
だが、それと同時に、
「貴様、私の物に何をする…」
という言葉が、藍繪正真の耳に届いてきた。囁くように小さく、しかし耳元で言われたかのようにはっきりと。
その声はさらに続けた。
「人間同士で殺し合おうがどうしようが私にとっては単なる娯楽だ。が、私の物に手を出すというのなら、ただで済ますわけにはいかんな」
「……な……?」
それは、人間の命すら凍りつかせる<呪いの言葉>だった。それを浴びただけで、藍繪正真の心臓は機能を失った。信号が乱れ、正常な鼓動を刻むことができなくなり、心室細動を起こした。見る間に血流が滞り、全身の機能もそれに伴って失われていく。なのに、
「
という言葉だけは、はっきりと耳に届いてきたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます