野良犬とペット
こうして
まあ、ペットを飼う程度の情はあったのかもしれないが。
だから、<法律上の娘>に対しては、それなりに金を掛けた。子供が好みそうな
碧空寺由紀嘉。
まったく縁もゆかりもなく、完全に無関係に生まれたこの二人は、片方はまるで野良犬のように育ち、もう片方は溺愛されるペットのように育ったが、どちらも実際には誰からも望まれず必要とされず、ただ無為にこの世に送り出されたという点だけはまぎれもなく一致していた。
だから、
<経済的に恵まれない環境>
で育った藍繪正真も、
<経済的には恵まれた環境>
で育った碧空寺由紀嘉も、同じく人間をまったく信じておらず、ただただ利用するだけのものとしか見做していなかった。
当然だ。本人が誰からも愛されていなかったのだから。愛されていないのだから愛し方など学び取れるはずがない。
『門前の小僧、習わぬ経を読む』
という言葉があるが、確かに直に習わずとも繰り返し触れていれば無学な小僧であろうと経の一つでも読むことはあるだろう。しかしそれは、
<日常的に経に触れることができる環境>
があればこそのものだ。
<愛情>
や、
<他者を敬うという感覚>
に触れることなくそれを学び取ることができるなど、もはや、
『異世界に転生し神とやらからチート能力を授かる』
くらいに有り得ないことのはずである。
だから、藍繪正真も碧空寺由紀嘉も、『経済的に恵まれていたか否か』という点では違いはあっても、
<人間らしくあるための感性>
というものについてはどちらも等しく、
『まったく学び取れる環境になかった』
と言える。
何しろ身近にいる大人の誰も、二人を<人間>として扱わなかったのだから。習わずとも触れていれば学び取れることもあるとしても、その『触れる』ということができなかったのだ。
だから、藍繪正真も他者を人間として接することなどできなかったし、碧空寺由紀嘉も同じだった。
ただ、二人は、ある<同一の存在>と決定的に異なる出逢いをしたと言えるだろうか。それがまったく異なる結末をもたらしたと。
十八で指導養護施設を出された藍繪正真が、就く仕事就く仕事ことごとくで人間関係にてトラブルを起こし職を転々としていた頃、碧空寺由紀嘉は同級生に対し<イジメ>を行っていたのだった。
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