碧空寺由紀嘉
その後も、児童養護施設での
力が強い者が弱い者をいたぶり憂さ晴らしをするのが当たり前という日常だったのだ。そしてそれは、本来なら子供らを守り人間として生きる上での<手本>を示し規範となるべき職員ら自身が、自らの憂さを晴らすための道具として子供らをただ利用していたということでもある。
しかもそんな職員らを見倣って、子供達同士でも大きく力の強い者が小さく力の弱い者を虐げることでストレスを転嫁するというサイクルが出来上がっていた。
ゆえに藍繪正真自身、成長と共にさらに幼い子供達を叩くような子供になっていった。
『環境が人間を作る』
というのは、まさしくこういうことを言うのだろう。
そういう環境を当たり前として育ってきたことで、他者を傷付けることに対してなんの抵抗感も持たない人間として成長していったようだ。
ある意味では、
<他者を傷付ける行いを平然と実行できる者としての英才教育>
を受けたと言ってもいいのかもしれない。
一方、彼が十五歳になった頃、全国にレストランチェーンとホテルチェーンを展開する企業家の家庭に、一人の新生児が迎えられた。
新生児の名前は
父親は優秀な企業家としてメディアなどでも何度も取り上げられたことのある人物だったが、その法律上の妻である女性との間には子供ができなかった。なのに、<愛人>との間に子供ができたことにより、多額の手切れ金を支払った上であまり大っぴらにはできない手段を用いてその愛人から子供を引き取り、本妻の実子として出生届を偽造し、碧空寺家の跡取り娘として立派な屋敷で暮らすことになったのが、碧空寺由紀嘉だった。
なので、生まれた時から、経済的には大変に恵まれていた。
もちろん本妻は、
『夫の愛人の子を自分の実子として戸籍に記載された』
などということに納得できず反発したものの、そこは父親が金にあかせてシッターを雇いそれに育児の一切を任せることで対処した。法律上の母親とされた妻も、自分が一切関わらなくても済むということで、何とか抑えてはいたようだ。ここで逆らえば、子供ができない自分の居場所は完全に失われるということで。
もっとも、これ自体、種明かしをすれば、子供ができない原因は夫の側にあり、愛人が子を宿したのも実際には夫の子ではなかったのだが、それについてはさほど重要ではなかった。そもそもこの家庭は、体面だけが必要なのであって、本質はどうでもよかったのである。
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