実刑判決

 こうして藍繪らんかい正真しょうまは警察によって救助され、病院に保護された。そして血縁上の母親である女も出産直後ということで救急搬送となったが、それからも隙を見て何度も逃亡を図ろうとした。自分が何をしてきたか自覚があるからだった。

 それを物語るかのように、女の部屋からは、衣装ケースに詰め込まれた赤ん坊のミイラ化した遺体と思しきものがいくつも出てきた。女は赤ん坊を生む度にそのまま死なせて、その遺体を隠してきたのだ。

 これによって確認された遺体だけでも五体。他にも隠されている可能性はあったが、この日に発見できたものはそれだけだった。

 その後、女は、<保護責任者遺棄致死>と<死体遺棄>の容疑で起訴され、遺体が確認された五件でまず有罪が確定。懲役五年の実刑判決を受けた。弁護側は心神耗弱による無罪を主張したが、赤ん坊の遺体をしっかりと隠していたこと。事件発覚後に逃亡を図ろうとしたことなどにより刑事責任能力を認められたために有罪とされた。

 ただ、精神疾患があった点について一部は認められ、求刑七年に対して五年の懲役刑と減刑はされたが。

 なお、<殺意>については立証が難しいと見られて<殺人>での立件は見送られている。


 この事件が発覚した時点では世間も賑わせつつも、それに騒ぎ立てるような者達は所詮、ただお祭り騒ぎがしたいだけの野次馬でしかなく、次々と起こる新しい事件に興味が移って、生き延びた藍繪らんかい正真しょうまのその後についてさえ関心を見せることもなく、女が刑を終えて出所する頃にはすっかり風化していた。

 そして女は、自力での出産の際の大出血が原因で自ら命を落とすまで、さらに二人の赤ん坊を生んでは死なせたが、そのことさえおざなりに報道されただけで、すぐに忘れ去られた。


 一方、そのような形で誰にも望まれずこの世に生を受けた藍繪正真は、児童養護施設で保護されたものの、そこでも彼の存在は望まれていなかった。何の志も持たず、ただ<持ち回りの仕事>として赴任しただけの職員は事務的に仕方なく<作業>として役目を果たすだけで、彼に<愛情>などと呼べるものを一欠けらも見せることはなかったのだ。

 しかも、大人がそのような振る舞いをしているがゆえに、その施設に保護されていた他の子供らも大人の在り方を見倣い、自分よりも弱い相手は見下し、憂さをぶつけるための<道具>と見做した。

 まだ二歳になったばかりの彼に対しても、ただ通りがかっただけで頭を張り飛ばして転倒させ、彼が泣くと、

「うるせえ!」

 と罵りながらさらに叩いたのだった。


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