神罰 ~魔王生誕~
京衛武百十
プロローグ
藍繪正真
父親は分からない。何しろ彼の母親自身に心当たりもないのだ。いや、正しくは、
『心当たりがありすぎてどれか判別がつかない』
と言うべきか。
「う…うえ……っ。うぇ……」
<泣き声>というよりはまるで呻き声のような声を上げながら、血が混じったぬめる粘液の中で溺れる彼を、血縁上の<母親>である女は、
「……」
それこそ<うごめく糞>でも見るかのように嫌悪感のみが込められた視線で見下ろす。そこに<愛情>などという綺麗事はまったく存在しなかった。ああそうだ。女にとって<それ>は本当に糞ほどの価値もなかったのだ。
『飯を食ったら糞が出る』
という程度にただ自分の体から排出されただけの<不要物>でしかなかった。
だから当然、乳など与えるようなそぶりさえ見せなかった。このまま放っておけばどうせ死ぬのが分かっていたがゆえに、何もするつもりもなかった。
しかし、女の部屋に向けてゴツゴツと荒っぽい足音をさせながら何人もの人間が近付いていた。
「……!?」
そのものものしい様子に、女の表情がギョッとなる。何かピンとくるものがあったのだろうか。
そして、女の部屋のドアをゴンゴンと乱雑にノックする音。
「
声を掛けられたが、女は慌てて布団をかぶせて自身が産み落とした赤子を隠した。
しかしその様子そのものが、実は向かいのビルの屋上から見られていたのだ。だから、
「突入! 突入だ! 窓を破れ!!」
連絡を受けた男達は躊躇なく廊下に面した窓のガラスを破り、そこから部屋へと侵入した。と同時に、
「布団だ! そこに子供がいる!! 保護しろ!!」
もはや怒声と変わらない声で指示が与えられて、窓から侵入した若い男が、
「なんだよ! なにすんだ!!」
掴みかかろうとする女を振り払って、汚い布団を掴んで剥いだ。その男の表情もギョッとなる。次の瞬間、ギッと女を睨んで、
「要救助者、発見! まだ息があります!!」
声を上げた。
自分になおも掴みかかってきた女を抑えつつ。
これが、
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