第2話


するとある日のことである。


いつものように、務めが終わり帰途についた小役人の男はその道すがら、子どもがいくにんか、道端に集まって、なにかしているのを見かけた。


独楽回しでもしているのかと思って、後ろから、ひょいと、覗いた。


小役人の男は、唖然とした。


どうやって捕らえたのであろう。なんと、彼らは、『雀』のからだに縄をかけて、棒で突っついたり、叩いたりして、遊んでいるのである。


――なんてむごいことを。


なるほど、子どもはまだ、善悪をはかるものさしを持っていない。


そこで、どうかすると、大人が思わず目をむくような、残酷で、むごいことを、なにも考えずに平然とやってしまいがちである。


なまじ、からだが大きいだけで、中身は、まだまだ、子ども。だから、しょうがない、とは思わない。


この小役人の男は、こと不正に関しては、それが、たとい上司や同僚であっても、あるいはまた、大人や子どもであっても、到底見て見ぬふりができなかった。


まして、彼は篤志家でもあった。したがって、不条理の傍らを黙って通り過ぎるわけにもいかない。


ただ、性来彼は争い事を好まぬ性分。それゆえに、これまで、こうした場面に遭遇しても、頭ごなしに怒鳴りつけるということは、一度たりとてなかった。


それより、にこやかな笑顔で、噛んで含めるようにいい聞かせてやるのが常であった。


小役人の男は今日も、いつものように、出来るだけ笑顔をつくりながら、年かさらしい子どもの肩を叩いて、「もう、堪忍しておやりなさい。雀も叩かれたらいたかろうて」と声をかけた。


「ふん、余計な世話など焼かれとうもない」


こう切り返してやろうと、年かさは上眼を使って、蔑むような調子で、振り返った。


あ、やべえ!


ところが、肩を叩いてきたのは村の大人衆こぞって、「あのお方は、立派なお役人じゃ。なんで、くれぐれもそそうのないようにな」となかなか評判の男だった。


こりゃ、ちょいと、相手が悪いわいーー年かさはとっさに、そう判断した。


なにしろ、ヘゲモニーを獲得する者は、機を見るに敏でなくてはならないからだ。


彼はそこで、ほかの仲間に、すばやく、「おい」と目配せすると、そそくさと、もうその場から立ち去ってゆくのだった。



つづく






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もうひとつの、舌切り雀 よしだぶんぺい @03114885

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