第9話 舞の生態

 人目があると舞はちょっと背伸びをしてしまう。できないことを「ちょっとできる」と言ってしまったり、わからないことを「少しわかる」と言ってしまう。そのたび、明日香が手助けをする。


 舞はそんな自分がちょっと好きじゃない。背伸びというより見栄っ張りだ。虚勢を張っている。

 だから、他人が苦手だ。必要以上に気を張って疲れ果ててしまうし、吐きたくない嘘をいくつも重ねて、悪いことをした気分になる。

 もっと気楽に人と関われたらいいのに、とおもう。そういうことがうまくできれば、もう少しぐらいいろんなことを楽しめただろうな、と。


 明日香は特別だ。舞の手を引いてくれる。舞の行きたい方へ、手を引いて連れて行ってくれる。だから、しっかりと握ってはなしたくない。

 あすちゃん、あすちゃん。昔からその背中を追いかけた。明日香は舞を裏切らない。そう確信している。そばでいつも見守ってくれる。


 家庭科準備室で、二人でお弁当を食べている。いつもとおなじ、大好きなメロンパンを頬ばる。明日香はお弁当を食べている。卵焼きとウインナーとプチトマトとおひたし。黙々と食べている明日香をみるのが好きだ。何も話していなくても、慌てなくて済むこの時間が好きなのだ。


「今度、お祭りあるんだよ。あすちゃん、一緒に行こう? 浴衣も着て、花火見たいな」

「いいよ」


 舞は幸せなのだ。

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