第6話 髪
「あすちゃんの髪はツヤツヤでふわふわだね」
明日香の猫っ毛を触りながら舞がいう。舞の細く長い指が明日香の髪を梳く。手入れの行き届いた髪に触れ、舞はご機嫌だ。携帯しているつげ櫛を懐から取り出す。舞のお気に入りの桜が彫られたかわいいつげ櫛。
「ほら、引っ掛かりがないよ」
笑いながら、櫛で明日香の髪をすいて行く。明日香は椅子に座り、舞の好きなようにされるがままだ。優しい力加減で明日香の長髪を梳く。窓からの太陽を受けて、髪がキラキラと艶やかにひかる。猫っ毛の手入れには苦心するが、こんなふうに舞が喜ぶから、目一杯ヘアケアに力を入れている。
「さらさらですごくきれいだよ」
満面の笑みを浮かべて舞は髪をすいていく。明日香の腰まである長髪をするすると櫛がかき分け通り抜けていく。枝毛のない柔らかい髪。
「あすちゃんはかわいい」
上機嫌で舞は明日香を褒めまくる。
「あすちゃんの髪を結んでみてもいいかな?」
「いいよ」
明日香がそう答えると、すぐに舞はヘアゴムを手にとって結び始めた。まずは一つ結びだ。滑らかな髪をシンプルにまとめ、ヘアゴムで括る。
「わぁ、大人っぽい!」
手鏡を手に明日香は自分の顔を眺める。顔の周りがスッキリして、爽やかで落ち着いた雰囲気になったように感じる。
髪をまとめたせいで、赤くなった耳が見えてしまっていた。舞は、ずっと明日香を褒めっぱなしで照れないわけがなかったのだ。
そんな明日香にはきづかないで、舞は「かわいい」「にあってる」「すてき」と褒め称えている。
「他の髪型もためしてよ」
「うん! いいよ!」
ヘアゴムがはずれて、赤くなった耳が隠れた。舞はヘアゴムをふたつ取り出し、慣れた手つきで髪をかきわけ、結っていく。
「じゃーん!」
三つ編みになった。明日香の三つ編み姿に舞は「これは!」と興奮している。
「かわいい!!!」
昔の女学生さんみたいだー、と花が和らぐような浮かれ調子で言う。なんとなくまる眼鏡をかけてそうな感じで、レトロ感にあふれている。
舞が長い三つ編みを持ち上げ、顔の横で円をつくる。
「ひつじさん!」
舞がはしゃぎながら三つ編みで遊んでいる。想像力の逞しいことだ。
「今度、髪を結んで一緒にお出かけしようね!」
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