第2話 お昼

 

 舞と明日香は二人でご飯を食べていた。

 二人の他には誰もいない家庭科準備室。この部屋を利用できるには訳がある。舞と明日香が料理研究部の幽霊部員だからだ。

 料理研究部に所属しつつも、幽霊部員なので料理が得意ではない。二人のお昼ご飯は菓子パンとお母さんの手作りのお弁当だ。


 甘党の舞はメロンパンを頬張っている。サクサクのクッキー生地を歯で割れば、ほのかに暖かいふわふわのパン生地。心地よい甘さと食感に心奪われたままかぶりつく。

 毎度のことながら、こんなふうに食事を堪能しているので、二人の間に会話はない。無言で食べ終えると、お茶を淹れて一息ついて、そのあと会話をする。


「今日も美味しかった」


 舞が恍惚としたままで言葉をポツリと漏らす。明日香は幸せな顔を眺めながら、これで1日分の表情筋を使い切ったのではなかろうか、と思う。


「英語、小テストだよ」


 幸せを破壊する一言を告げると、そのまま舞は固まってしまった。空いた窓から吹いた風がメロンパンの包み紙を落とす。

 やがて、ぶるぶると舞の体が震えだした。英語アレルギーの反応としては大袈裟すぎる。


「ただの単語テストに、どうしてそんなに怯えるわけ?」

「はぁ~~~」


 わかってないね、と舞が肩をすくめた。


「この世にはどうしようもなく逆らえない存在、摂理ってものがあるんだよ。私に、その存在を教えてくれたのは英語。イングリッシュ。一個英単語を覚えたら、日本語を五個ぐらい忘れちゃうんだ。だったら、日本語以外の言葉を喋るべきじゃないんだよ」


「留年するよ?」


「Money is power」


 金持ちの娘の言葉。これは初めて覚えた英語だよ、と舞は笑った。

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