第22話 炒飯よりは餃子で

「どうして三日しかいないの!?」

「だから、うちのバイト先大人気で。連日暑気払いのサラリーマンががっぽがっぽと……」

「あんた、わざわざ会社辞めたの居酒屋でバイトするためじゃないでしょ!」


と、帰るなり母の叱責を受けている美大の3年生に編入した私。

でも、ある意味ほんとに居酒屋でバイトしたかったんだって。というか、憧れの大学生生活ってやつが、あるのよ私には。


「夕飯は阿須賀君食べに来るからね。」


それは、こうしてダイニングテーブルで餃子を包まされている時点で察しがついていた。私も弟たちも好きだけど、何より阿須賀が好きな餃子。100個も200個も包んで、倒れこむまでおなか一杯食べる。それがうちの餃子のお約束。


まあ、家族がいっしょのほうが気が楽だし、夕飯食べに来るのは全然かまわない。家の前でばったり会って、気まずい会話を展開するのが一番避けたいパターンだから、うちに帰ってくるなり引きこもり状態で、ずーっと下を向いて餃子の皮と格闘している。そしておそらく、明日は山のような炒飯を中華鍋2回使って母は作ってくれるのだろう。そしてお盆休みの間、ずーっと阿須賀はご飯を食べにくる。おばさんが料理ができないから?そういうことではない。一人っ子で人づきあいが面倒にならないように、うちの3人兄弟と一緒に過ごさせたいという、双方の母の意向である。


「夕飯は、とか言って、どうせ明日も来るんでしょ、阿須賀。」


餡を包む手を止めずにそういうと、意外な答えが返ってきた。


「今回のお盆休みはいろいろ忙しいらしくって。餃子と炒飯なら餃子を取るっていうから今晩来るのよ。」


珍しい。

週末はよく友達と遊んでるけど、盆暮れ正月は割と家にいるタイプなのに。


あ、そうか。

結婚したんだっけ。

謎の奥さんと。


「ふーん。」

こっそり後でもつけてみようか。でも、たぶん私すぐ見つかっちゃうな。


「明日の昼ご飯なにー?」

「チャーハン。」


当初の予定通り、三日間家に引きこもっていることに決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る