第18話 徒労とは、徒(いたずら)に労すること
結局阿須賀は、なんの釈明も説明もせずに帰っていった。悪いのは自分だってわかっているのに、今までの距離を保とうとする確信犯だった。
『俺たち、生まれた時からの付き合いだよな』っていう幼馴染設定を死んでも手放さないという決意。
そして、私は絶対に結婚もしないし彼氏も作らない。阿須賀がどんな状況であろうと私だけは阿須賀を一番に優先するという自信。
なに?この、根拠のない自信。
そんなに自信満々にさせてたの?今までの私の行動が!?
で、結婚してるのに、私という人間を必要とするのはどうして???
阿須賀の家って、政略結婚しなきゃいけないほどの家だっけ。
『事業が傾いたこの家を再生させるには、ほにゃらら銀行のお嬢さんと結婚してくれ。』とか?いやいやおじさん、サラリーマンだし。
『この家の血筋に平民の血を入れるわけには!』って、だからおじさんサラリーマンだし。もしや今頃になって、なんとか王朝の末裔であることがわかって、後継だけは作らなきゃいけないけど、本当に好きなのは私とか。いやいやいつの時代の話よ。
だ・か・ら、
どっからどう見てもどう話を聞いても私のことを好きそうなのに、
なんで付き合うのが無理なの?
なんでホワイトデーのお返しがないの?
そしてどうして私はダメで、他の人とは結婚しちゃうの?
理由を教えろ!!!
「高田さん、珍しく今日はカフェテリアいなかったね。」
浜守くん、今日も安定のジェントルマンだわ。5つも年上の私が不安定で、申し訳なくなっちゃう。
「今日はどうしても豚骨ラーメンが食べたくって、『岡田家』に行っちゃった。」
「少し離れてるじゃん、学校から。」
「ふふふ、自転車を購入したのですよ。」
「ああ、なるほどね。今まで1時間歩いてたんだもんね。」
「そう、なんと電動アシスト付き。」
「なんかそれ、ずるくない?」
「原動機付き自転車よりは、かなり自力だよ。」
加藤くんに会うのがなんとなくツライ、とは言いにくかった。加藤くん連れてきたの浜守くんだし。どうせなら例の4人ってやつを全員連れてきていつも一緒にいるっていうのはどうだろう。牽制しあって泥沼になって、むしろ一人一人の傷は浅くて済むんじゃなかろうか。
ま、余計なことは考えるまい。どうせ私の脳内阿須賀だらけなんだから。
むしろ好きな理由があったらよかったな。顔がいいから好き、だったら、もっと顔が好みの人を探せばいいわけだし、優しいから好き、だったら、もっと優しい人を探せばいいわけだし。
困るのは、どうして好きなのかわからないのに好きだって場合。どうにもできない。
だったら、
もう一度、挑戦してみようか。
新しい相手を、好きになろうという努力。
今までは、阿須賀を打ち消そうとしていたからできなかったのかもしれない。
阿須賀を好きな心はほったらかしにして、目の前にいる人を好きになろうとする努力。
今の状況を打開する一歩には、なるんじゃなかろうか。
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