第15話 どうしていいかわからないとき、

そう、みんな、どうしてる?

どうしていいか、本当にわからないとき。


だってね、考えて考えて考え抜いて、やった結果がこれだよ。


全部捨てて、阿須賀だけ取ったのに。

阿須賀の阿須賀だって実物を取ったんじゃないよ、思い出だけ取った。

そんな謙虚な私に、そんな遠慮してる私に、

一体どんな仕打ちよ!!


「今日は鼻息荒いね。」

「ああ、笠森くん。」

「…… もう、面倒だから訂正しなくていい?」

「ごめんね、後戻りできないくらい、私の中でお約束になっていて。」

「むしろ毎回負担なんじゃないかって思うけど。」

「そうだよね、でももう止め時が分からない。」

「じゃ、もう止めていいよ、俺が許可する。」

「……ありがとうございます。」


先日、不覚にも涙を見せてしまったが、浜守くんはそれには触れず、いつも通りに接してくれている。


大人だなぁ。


なんでこんなに素敵な人が世の中には存在するのに、阿須賀なんかに、あんなどうしようもないやつにこだわってしまうんだろう。


「こんにちは。」

「おう。」

「加藤くん、こんにちは。」


この人も、何もなかったように淡々と接してくれている。なんて大人なんだ。なんていい人なんだ。


もう、好きって何だろう。もうほんとにわかんない。なんかの呪い?誰かに魔術かけられて、思い込んじゃってるの?


「高田さん、また教務室に呼び出されてたね。」


無口な加藤なにがしのくせに、開口一番思い出したくないことを!


「手がね、どうしても遅いんですよ。授業中に終わるはずのところまでいかないから課題になっちゃうって話をね、マダム靖子としていたわけですよ。」


マダム靖子(正確には田中靖子教授)が意地悪だということではない。多少生真面目な方なので、多めに見る方法が、他の先生より大変なだけで。


「やっぱ、ポッとその気になって入ったデザインの道というのは、デッサンでバレるよね。」


「ああ、マダム靖子か。」


やっぱり無口だよな、加藤なにがし。その一言から(あの先生だったらそれくらいやりかねないよな。高田さんも災難だったね。でも大丈夫だよ。)くらい思ってるってことを汲み取ってほしいようだ。わかってる。ちゃんと汲み取りました。


「ご心配ありがとう。」


お礼を言うと、ぶっきらぼうに頷く。少し照れてるように思う。


ヤバい。ヤバいヤバいヤバい。

これ以上好感度上げちゃだめだ。私の中でアラームが鳴る。


なので、突然ですがカフェテラスの席を勢いよく立ち、カバンを背負う。


「しかし、私はまた元気に復活したので、課題くらいなんてことないのよ。じゃ、またね!」


学生時代、苦労したこと。

阿須賀のファンにいらぬ嫉妬を受けて周りが常にうるさかったこと。そして、


  −勝手に私のことを理想化して片思いしてくる人たちに、加害者にされること。


どうしてだか、なんとなくなんだけど、加藤くんとはうまく友達付き合いできない気がする。


困った時は、逃げるに限る。

少し時間は早いけど、次の教室に入ってしまった。




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