第13話 本当の失恋は、ここから
「高田さん、なんか目の周りすごいことになってるけど。」
「ああ、あまもりくん、おはよう。」
「ナチュラルにいじってくるねぇ、俺、浜守。覚える気なさそうだけど。」
あんまり眠れてない。
初心に帰って、『私は阿須賀の初恋の相手です』という幸せに浸って、現実を忘れようとした。そもそも現実を見なくて済むようにこんな遠くで大学生やってるわけで、自分の妄想の中で阿須賀とのことは完結させようと思っていたのだ。
甘かった。
この作戦は、現実でも阿須賀が独り身だから、彼女を作る気配がないからできる作戦なのであって、実際阿須賀に相手がいたと知ってしまったなら、そんなことを本人の口から聞いてしまった日には、妄想し続けるのは無理だ。それこそ病んでしまうレベルまでいかないと、私のような思い込み妄想レベルが標準くらいだと、難しいのだ。
現実は、あまりにも大きかった。
「ちょっと、眠れなくて。」
「なんかあったの?」
この人、優しいなぁ。
「失恋したのよ。初恋の君に。」
すると浜守くんは、ニヤッと笑った。慰めてくれるのかと思いきや、意外なことを口走る。
「それ聞いて、喜ぶやつ俺4人知ってる。」
「は?」
「ああ、気づいてなさそうだなとは思ってたけど、やっぱ気づいてないか。」
「え?」
「高田さんのこと気にしてる人が、俺の知る限りで4人いるってこと。すごいじゃん、モテモテじゃん。」
「 …… 」
実は私、モテるのは今に始まった事ではない。どうやら私の外見は、各々の理想を重ねやすい、柔軟性のようなものを持っているらしく、すごく素敵な私を想像して楽しんでくれているようだ。ある人に言わせればそれは長所であり、また私にとってはトラブルのもとであったりする。まあ、誰かと付き合うまでになかなか至らないので、それが長所か短所かの検証は、できていないままなのだけれど。
「私、その人以外を好きになる自分が、全く想像できないんだよね。彼以外の誰かと何かする時間とか、もったいなくって作れない。だったら一人でいたいし。」
「あれ〜、そういう人?意外だなぁ。」
「よく言われる。私のこと知ってる人、私のこと好きにならない。」
「ああ、ちょっとわかる気がする。」
「だから、今、私モテモテだと困る。どうしよう。やだなぁ。」
「ははははは。」
隈だらけの私とは裏腹に、浜守くんは今日も明るかった。
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