第12話 いつ? 誰と? どこで?

問い詰める権利ぐらい、私にもあると思う。


「阿須賀、あんた、いつ誰と結婚してたの。」


「それは言えない。」


これじゃあ、嘘かほんとかわかんない。それ以前に、なにがどうなってるのかわかんない。さっきから頭が真っ白で、なにも考えられなくなってる。


「それじゃ奥さんに悪いから、切るわ。」


そして着信拒否。そしてブロック。


他にどうしろと!?


しかも、結婚て、けっこう大ごとだと思うけど、それでなんで、『それは言えない』になるの?どんな深い理由があるの?バレたら事件でも起こるの?命の恩人の遺言で許嫁で、相手が白血病かなんかで、天涯孤独の記憶喪失なの?そういうタイプの設定なの?阿須賀が命をかけて守ってるとかそういうことで、周りには悟らせないように厳重な警戒をしているの?なのに松子を悼みたいからって、


私にポロっと言っちゃったって、


どんだけ危機管理を怠ってるの!?


確かに早く結婚してほしいって思ってたよ。披露宴に呼ばれたりなんかして、同級生がやる馬鹿げた余興とかで「くだらなすぎる〜」なんて指差してひとしきり笑って、新婚旅行のお土産もらって、それで段々と人のものになった実感を手にするんじゃない?


こんな、深夜の電話で、しかも先週からずっと死んだ金魚の話しかしてなくて、なんで松子からの妻がいる告白?

ずっと隣に住んでてわからなかったんだから、母もおばさんも変わりがなかったんだから、百歩譲って籍が入っていたんだとしても、別居だよね。だって、阿須賀は隣に住んでるんだもん。仕事ができる奥さんで、単身赴任でもしてるのかな。お相手の家の方針で、通い婚でもしてるの?平安時代みたいに?あ〜もう。


何もかも全然わからない!!!!!!!!!


ひとしきり脳内で騒いだが、落ち着いて考えてみれば、一番可能性の高いところとしては、売り言葉に買い言葉の冗談だった、っていうオチ。そう、多分そうだよ。


なのに、胸騒ぎがおさまらなくて、早々にベッドに潜り込んだのに、空が白くなるまで眠れなかった。

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