第10話 何も変わらない日々

普通、もっと気まずくならないか?

はにかむとか照れくさいとかもなく、バツが悪いとか戸惑うとかもなく、次の日も阿須賀は変わらなかった。


そしてドアを開けて外に出れば、ばったり会う。それは登校時間だから。そしてお隣さんだから。


「昨日の回覧板おばさん持ってきてたけど、どうした?」

「え?いや、その、高校生になるから、回覧板係卒業してもいいってお母さんが…… 」


そんなわけないじゃん!フラれた次の日どんな顔してあんたっち行っていいかわからなかっただけじゃん!

私がおかしいの?違うよね、おかしいの阿須賀の方だよね!


でも、そんなこと言えない。


「どうしても私に回覧板を持ってきて欲しくば、丁重にお願いしたまえ。」

「うん。もえ、また回覧板持ってこいよ。」

「あんた、丁重って意味わかってんの?」

「いいから、玄関で松子の成長を分かち会おうぜ。」

「あの、まるまるした子?松子になったの?」

「松竹梅の、一番上の名前。うちの長女だから。」

「ふーん、あの子女の子なんだ。」

「なんか、なよなよしてんじゃん。」


多分、金魚はみんな、なよなよ泳いでると思う。


バレンタインの翌日だというのに、告白されてフった相手だと言うのに、阿須賀は何も変わらなかった。


『付き合うとか、無理。』


あれは夢だったのだろうか。


「じゃあ、そのうち竹子と梅子も紹介してよ。」


そんな馬鹿なことを言って、歩き出す。で、一緒に登校する。卒業式まで毎日結局二人で登校した。もう誰も冷やかす人もいないくらい当たり前の光景。


昨日は昨日でやっぱり阿須賀の家にはチョコレートがバンバンきていた。そして阿須賀スマイルで全部やつは受け取っていた。もう盗み聞きできるような小さい体ではないから、どんな会話がなされていたかは知らない。でも、玄関前での恒例行事、今年は中学3年生という節目の年だからか、12人とやや多めだった。


2階の自分の部屋の窓から、ずっとその光景を見ていた。そして決意を固めていったのである。実は私としては、ずっと両思いだと思っていた。温度差の違いはあっても、阿須賀にとっては私は女の子として一番だと思っていた。


ショックだった。まさか断られるとは。本当にショックだった。衝撃すぎてどう受け止めていいかもわからず、泣く気にもならなかった。


なんで?

どういうこと?


そう、まったくもってわからない。何を考えているんだ阿須賀。


私と阿須賀が付き合っているんじゃないってことを知っているのは、世界中で私と阿須賀の二人だけだと思う。きっと。

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