第7話 しかたないから勉強するしかない

デザインの勉強って、面白い。

描いたり作ったりも楽しいけど、広告の在り方であったりとか、建築との兼ね合いであったりとか、座学もすごく楽しい。

デザインって、人の暮らしをより便利により美しくしていくものなんだなぁ。


うっとり。


年齢も出身地もクラスメイトとは離れているし、はなから隠遁生活をしにきている私なので、友達付き合いは全然していない。全然しなくても責められない。それはみんなより5歳も年上だから。もう気楽で仕方がない。こんな楽な生活をしてたら、就職する時大変かも。人に気を遣うという、その遣い方をもう忘れてしまった。


「高田さん、今日も一人?」


突然声を掛けられて驚く。この人、同じクラスのなんとか森くんだ。えっと、中森くん?山森くん?


「俺、浜守。はまもりたくやね。」

「ど、どうも。高田萌です。そうです、今日も一人です。」

「電車乗るでしょ。駅まで一緒に帰ろう。」

「は、はあ。」


5歳年上にこの気さくさ。すごいなこの人。有名な広告代理店に就職内定してそう、密かに。


「なんでこの学校来たの?」

ストレートだなぁ。

「ちょっと、聞いてみたくて。俺、好奇心抑えんの苦手で。」

すごい、ストレートな理由もストレート。

「うん、もう一回学生やりたかったの。」

「何それ。」

「一回社会人やるとわかるよ。大学時代って、すごく大事な時間だったんだって。やっておきたかったこといっぱいあったの。」

「なに?そのやっておきたかったことって。」

「勉強。」

「え?」

「だから、勉強!最初の大学生の時、他のことに気を取られて全然勉強できなかったの!」

「え〜、勉強以外のことがしたいから大学来るんじゃないの?」

「でも、みんなすごいじゃない。私いつも恥ずかしいんだよ。3年から編入なんてするんじゃなかった。1年生から入ればよかった。」

「真面目だなぁ。」

「勉強しに来たからね、私。」


ああ、久しぶりに笑ったかも。

はまもりたくや、明るいなあ。

私も、また、明るい思いで生活していいのかなあ。


誰に頼まれたわけでもないのに、喪に服したように自分に楽しむことを禁じていたらしい。別に、阿須賀と距離を置くのは悪いことじゃない。誰かが傷ついてるわけじゃないし、私だって、自分がムリだから恋活やめただけで、再開したっていいわけで、むしろ自分が阿須賀以外の方向を向けたなら、全てが解決、遠方のこの地まできた甲斐があったってことじゃないか。


「はまもりくん、わからないこととかいろいろ教えてください。」

「なんでも聞いて。」


電車がきた。

そういえば、私は電車通学じゃなかったんだ。なんとなく来ちゃったけど、駅。


「私定期券持ってないから、ここでね。」

「切符で通ってんの?」

「ううん、歩いてる。」

「そんなに近いの?」

「うん、1時間くらい。」

「全然近くないじゃん。」


また笑った。

やっと本当の大学生になったかも。そんな気持ちになった。

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