第6話 振られたいです、きちんと

分かったけど、一応聞く。


「で、今日はどういったお話でしょう。」

「佐藤くんは、今誰と付き合ってるの?」

「さあ、知りませんけど。本人に聞いたらいかがでしょうか。」

「聞いたわよ。今彼女いないって。」

「じゃあ、いないんでしょうね。」

「でも、先月あなたたち一緒にステーキ食べてたじゃない。」

お嬢様なのは知ってるけど、この人興信所にいくら注ぎ込んでるんだろう。

「入学祝いに奢ってもらいましたけど。」

「別にいいのよ、あなたが佐藤くんと付き合ってるなら付き合ってるで。でも、違うって言い張るから、私も踏ん切りがつかないのよ。」

「そうですよね、早くサッサと身を固めてくれれば、諦めもつきますよね。なのにあいつってば誰にでもいい顔するから。」

「あら、高田さんも、踏ん切りつかないお仲間?」

「そう言えなくもないですね。おかげでこんな遠くまで来てしまいました。」

「そうだったのね。」


そしてしばらく吉村さんは黙り込む。

この人、お嬢様だけど性格いいし、もうこの人と結婚してくれればいいのに。


「私、自慢じゃないけど小学校1年生から中学校3年生まで毎年バレンタインにチョコあげて、一回もホワイトデイのお返しもらったことないんですよ。ひどいと思いません?」

「え?あの佐藤くんが?」

「そうですよ。」

今度は腕を組んで黙り込む。

「もしかして、吉村さんはホワイトデーになんか返ってきたんですか?」

「え?ええ。キャンデイと熊の小さなぬいぐるみのセットを、そつなく返してきましたわ。」

「それは羨ましい話ですね。」

「そうね、そうなんでしょうね。」


考えてみたら、阿須賀からもらったものなんて何にもない。誕生日もクリスマスも、何にももらってない。私と阿須賀の間にあったものってなんだろう。


ご近所づきあい。


この一語に尽きる。嗚呼!なんということだ!! 本当にご近所としての付き合いしかないじゃないか!!

回覧板を持っていく時必ず会えるからって、『私回覧板の係がいい!』と母に手を挙げた私って可愛すぎ。でも、何度告白しても、阿須賀の返事は変わらなかった。


「付き合うとか、俺ムリ。」


じゃあ、なんだったらいいわけ?考えに考えて、出た答えがこれ、幼なじみ。阿須賀は、子供の頃から気の置けない付き合いをしていて、家が近くで便利な、一人が嫌な時一緒にいてくれる便利な存在が必要なだけ。ううん、必要まで言わず、あったら助かるくらい。

ジェットコースターに乗りたい時、隣の席を空けるのが勿体無いから一人いて欲しい時にいたらいいなの存在。居酒屋で鍋を注文するときに、お二人様からと書いてあったら鍋のために呼び出す相手。もう都合のいい女を超えて、パシリ?舎弟?お母さん?


それで何が困るって、それでも、そんなでも、阿須賀と一緒にいると私が楽しいってことだった。

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