第4話 リブロースステーキ、150gと300g

25歳の女子にしては、自分は結構食べる方だと思う。その時のコンディションにもよるけど、入学式で、少し緊張してた反動か、すごくお腹が空いていた。

チェーン店のステーキハウスに阿須賀を引っ張って、とにかくステーキを頼む。


「元気そうで良かったよ。」

一心不乱にナイフとフォークを動かしてる私を見て、阿須賀が言う。本当に元気かどうか、心配していたようだった。

「志望校に受かって元気じゃないわけないじゃん。もう最高よ。」

「俺と一緒に勉強した経済は、この先使われないのかよ。」

「阿須賀だって、実際仕事に使ってることどんだけあんのよ。」

「まあそうですけどね。」


ステーキ、いつもより大きいサイズを選んだのに、阿須賀が食べているステーキの大きさを見ていると、私って小さいな、という気分になる。食べられるステーキのサイズで人間の器の大きさが測られるわけでは決してない。それは頭ではわかっているのだけど、なんだか、悲しくなってくる。


私、何やってるんだろう。


あんなに一生懸命勉強して、計画して、家を出て、なんでこいつと顔突き合わせてステーキ食べてるんだろう。


「阿須賀ってさ、一人っ子じゃなかったら、性格違ってたかもね。」

「なんだよそれ。」

「海外勤務とか、辞令が出たらどうすんの?」

おじさんとおばさんに大切に育てられたせいか、阿須賀には家を出るという発想がないような気がする。甘えたいからというより、両親に寂しい思いをさせたくないという気持ち。責任感が強いというか。

「機会があったら行きたいけどね。」

「あら意外。」

「英語は会社に勉強させられてるし、海外勤務は手当も大きいし、できれば体力あるうちに行かせてもらいたいけど。」

「そうか、英語勉強してんのか。」

「無理矢理な。」


ステーキをしっかり平らげ、油ぎった口の中を苦いコーヒーでさっぱりさせ、大人しく阿須賀にご馳走になりありがとうと言う。


「阿須賀、遠いとこありがとう。駅まで送るよ。」

「あ、うん。サンキュ。」

なんだか言いたいことがありそうだったが、それを聞いちゃうとまた面倒になりそうだから、あえて聞かない。歩いて10分の最寄り駅まで、あたりさわりのないことを話しながら歩く。結構コンビニが少ないとか、テレビを買わずにシンプルライフを目指すとか、カーテンの色は思い切ってピンクにしたとか、とにかく質問されなそうな話題を次から次へと繰り出す。友達と話すことなんて、毒にも薬にもならないような、こんな話題のはず。私と阿須賀の関係に名前をつけるとしたら、友達が一番近い。正確なイコールではないにしても、ほぼイコール。


幼なじみ、なんて難しい言葉なんだ。


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