デートの残り香
「あーあ、フラれちゃった」
呆然と立ち尽くす俺にヤジを飛ばしたのは全ての元凶、夜道 桜だ。
「ちょっとえ?」
我ながら自分のことがクズだと思うが、初キッスがこれ以上ないほどの美人だったことに未だ喜びを隠しきれず顔は赤ままだ。
「どぉ?初キッスの味は何味だった?」
「左頬が真っ赤になるぐらい、痛かった」
「なにそれ」
なにも悪びれる様子もなく、笑う彼女を咎めるのは勇気がいる。いや、流石に咎めなきゃダメだろ。
「そっちこそ、俺とのキスはどうだったのかな?」
「唇カサカサ、パリパリ、どこの砂漠?」
「初キッスは砂漠の味か、いい経験じゃないか」
俺はもうどうすればいいかなにもわからない。頼むよ画面の向こうのみんな、教えてくれ。追いかけた方がいいの?これ?
「お前はもう少し申し訳なさそうにしろ」
「なんでよ」
「人のデート潰した上、女の子泣かせてんだぞ」
「女の子泣かせたのは形君もじゃん」
「泣かせたのは俺じゃない」
そうか?俺かも知れない。少なからず2回目は俺だろう。自分で自問自答を繰り返す。
「じゃあデートしよっか?」
コイツは一回痛い目見ないと分からないのだろうか?
「俺はどう言う気持ちでこれからデートしたら良いんだよ。てかお前わざわざ探してたんじゃ無いだろうな」
「たまたまだよたまたま」
「嘘つけ」
そう言って、家に向かって歩き出す。初キッスの甘い経験と、デートにフラれた悲しい経験を背負って。
もう6時すぎだ。自動ドアをくぐり抜ける。空は赤く染まり始めていた。俺は罪悪感を胸に抱きつつ、俺は悪くないと自己肯定感を自ら作る。
ピコン!
一件のメールに目をやる。
『あんたゆずる先輩泣かせて何やってんの?今から話あるからこっちきて。』
ジャムからだ。こっちってどこだよ。
「メール交換しよ!」
コイツは懲りないな。デートの後の残り香はやけに複雑で歪で、その上拗らせれるだけ拗らせていた。
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