トラウマ

「ちょ、ここでなにしてんの?」


「何って、そりゃあ大切な人が女の子泣かせてちゃあほっておけないでしょ」


「俺が泣かせたんじゃねぇよ」


 久しぶりに桜さんと話したにも関わらず案外問題なく喋れているもんなんだなと、変なところに感心する。


「えー、学校の同級生の、夜道 桜さん。こっちが俺のバイトの先輩のゆずるさん」


「え!?形君バイトやってたの!」


「そういや言ってなかったな。カフェでバイトやってんだよ」


 暗い雰囲気なのに、話しかける胆力があったコイツを俺は褒めやるべきなのか、怒るべきなのか分からない。てかなんで桜さんいるんだよ。


「2人はただの同級生?」


 当たり前な疑問を口にするゆずるさんに、俺は確かに説明不足だったと反省しする


「友っ––––」


「お互い1人しかいない大切な存在です!」


 間違ったことは言っていないのだが、誤解を招く可能性のある発言は控えてほしい。今後ともよろしくお願いします。


「それはっ––––」


「てか形君こんなところで何してんの?」


「言ったろ?デートしてんだよ」


「泣いてましたけど」


「…………」


 ここは黙ってやり過ごそうそうしよう。


「てか、この美人さんが、形君の舐めたの?!」


「いや、違うけど、てか」


「えっ?!影杉君そこまで?」


 少しずつゆずる先輩の顔色が悪くなってくる。トラウマの後にデートの相手の変なことがダダ漏れになっているのだから当然だ。てかカオス過ぎる。


「そーじゃ無いんすよ。ただの誤解っす」


「形君!私とデートしない?」


「これ以上場を荒らさないでくれ。頼むから」


 桜さんはほっぺを膨らませ、唇を少し尖らせる。コイツもしかして俺に惚れてるな?


「んっっ!」


 急に桜さんが尖らせた唇を俺の口と触れ合わせる。そうキッスだ。俺は顔が真っ赤になる。もちろん桜さんも真っ赤っかだ。


 俺が肩を持ち引き離す。確かに付き合っては無いとはいえ人とのデートでコイツは何をするのだ。


バチン!


 俺の顔に思いっきりビンタをお見舞いしたのがゆずるさんだと気づくのに少しばかり時間がかかった。


 理解した時にはもう、ゆずるさんは目の前から消えていた。


 叩かれた直後に見たゆずるさんは、涙で顔を濡らしながら、どこか遠くを見ていた気がした。


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