涙の理由
ゆずるさんを包んだまま、近くのベンチに腰掛ける。俺は何をすればいいのか見当もつかない。
とりあえず泣いてるゆずるさんを通行人という名のモブどもが見せ物のレベルで見てくれるので、薄い上着を顔から被せてやる。
「落ち着くまで泣いていいですよ」
「うん……ありがと……」
3分ぐらいだろうか。時間が流れ、ゆずる先輩が泣いていることにも慣れてきた時、ゆずるさんはゆっくりと話してくれた。
「あの人ね、私の元カレって言ったでしょ。
私ね、前まで仲良い友達がいたんだ。その子の彼氏があの人だったんだ」
「でも何回かあの人と友達と私で遊んでるうちに彼氏さんが友達を振って私に告白してきたんだ」
「そうなんですか」
「別に好きだったわけじゃないし、変なことしてたわけでもないんだけど結果として略奪みたいになっちゃったの」
「その告白はもちろん断ったんだけど、友達はやっぱり傷ついちゃって私と話してくれなくなった」
「友達もより戻したいみたいだったんだけど振られた手前関わりずらいみたいだったから、私がとりあえず付き合ってまた結び直したらどうかなって思ったの」
「でも、友達はそれは当てつけに見えちゃったみたいで、振らないと縁切るよって言われてすぐ振ったんだけど、次はそれをあの人が知ったみたいで、友達との中はどんどん悪くなっちゃって……」
「それがトラウマで彼氏いる人とかと何かするのって、怖くなっちゃったんだ」
よく分からなかった。わかったのは努力は報われないと言うこと、優しさは時に仇となること、人間関係は難しいこと。
「そうなんですね。結果はどうであれゆずるさんの優しさは僕には伝わりましたよ」
これは詭弁なのかも知れない。でも、今ゆずるさんを傷つけるのは間違っているし、それをするのは俺じゃない。
「何してるの?」
後ろから聞いたことのある声。俺は少し怖くなった。
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