ゆずる先輩

「えっ?」


 明らかにゆずる先輩は動揺?というか怯えていた。その証拠に俺の服の裾を掴む。そこ俺の汗で濡れてますよ。


「ちょっ!そんな怖がらなくても何もしないって〜」


 ここはゆずるさんにあまり気を遣わせない方がいいだろう。


「すいません。お二人はどう言った関係で?」


「あー、元カノ?だから俺は元カレに当たるな」


 おー、何があったゆずるさん。俺みたいなやつよりコイツはすげぇ匂いがするぞ?いい意味でね。


「てか君こそどんな関係?」


 話し方でわかる。コイツは陽キャでしっかりいい奴だ。でもこう言うやつはプライドが高いんだよ。


「バイトの先輩、後輩っす」


「へー、今は何?デート?」


「ショッピングっすね」


 答えになってないけど大丈夫かな?さっきからシャツを通して震えが伝わってくる。何があったんだ?


「すげえよな。人の恋潰しといて、よくそんな簡単にまた彼氏作ろうとできるよな」


 わざとゆずる先輩に聞こえる大きさで言う。人の恋を潰す?そんなことゆずる先輩はしないだろう。


「何かの間違いじゃないんすか?」


「いや、うーん。俺が悪いっちゃ悪いんだがな……」


「形君……行こ……」


 さっきの「行こっか」とは何もかもが違った。元カレさんに背を向け歩き出す。


「またそうやって逃げんのかよ」


 後ろから攻撃的な言葉が飛んでくる。


「お前はちょっと黙ってろよ」


 冷たい言葉をお土産に置いといてやった。俺のゆずる先輩に手を出すやつはブッコロ。とりあえず人の少ない本屋まで来た。ゆずる先輩は今まで見たこと無いほど震えて怯えている。


 急に俺の右胸に頭をうずめた。左胸の心臓が全速力ダッシュを始める。


「ヒッ……」


 彼女は俺に体を寄せて泣いていた。何故だろう。俺は選択を間違えた気がしてならなかった。もっと早く逃げていたらよかったのに。


 チラッと視界に見たことある姿が映る、まだこっちには気づいていないようだ。


 流石に後輩のバイト仲間に泣き顔を見せたくは無いだろう。そう思いゆずる先輩と一緒に店から出る。どうかジャム女に見つかりませんように。そう願いながら右腕でゆずるさんを包んだ。

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