空飛ぶ少年。

赤目

空飛ぶ少年。

足を踏ん張り快晴の青空に羽ばたいた。


すぐ体に浮遊感と解放感が走る。


僕は手と足を大の字に広げ、風を感じる。


翼という名の腕に下から空気が押し寄せた。


下から人の視線を集め僕はそれを見下ろす。


夢じゃない現実なんだと感じながら息を吸う。


服は体にへばり付き皮膚と密着する。


耳元ではゴウゴウと風が吹き抜けていく音。


瞬き一瞬で景色が変わる。


遠くの高いビル。僕の学校。よく行くコンビニ。


全てが小さく、そして遠くにある。


精一杯腕を伸ばす。


届くはずない。でも少しずつ近づく。


今は地面より太陽の方が近いように感じる。


はるか高い飛行機の音を聞こえる気がする。


速度はみるみる上がり僕は少し怖くなった。


僕の唯一の楽しみ。希望。それを楽しむ。


空飛ぶ僕に皆は指を指す。


僕は手を振りかえす。


僕ほど空を自由に飛ぶ人は見たことない。


もう飛行機の音は聞こえない。


代わりに車のクラクション。


救急車のサイレン。


そして絶えず風の音だけがこだまする。


もうそろそろ着地かな?


僕の飛行時間は長くない。


僕は着地の準備をする。


目を瞑り息を吸う。


もう一度腕と脚を大きく広げる。


風を体全体で感じる。


目を開けるともう間近に地面がある。


親の怒る声。


頼り無い先生の顔。


憎たらしい同じクラスのいじめっ子。


いつも同じ安いパン。


ボロボロの色褪せたTシャツ。


細い体と青白い自分の顔。


目を瞑ると色んな記憶が蘇る。


僕は目を開ける。地面はもうすぐそこだ。


やっぱり空を飛ぶのが好きだった。




そして顔を強く地面にぶつける。


バキッ!


という音と共に地面に体がへばりつく。


もう風の音は聞こえない。


そして僕はもう一度天へと高く昇って行く。












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