ウマ娘
ハマってしまいました。ウマ娘です。スマホゲームです。
ずっとハマらないようにしてきました。スマホゲームには。
絶対に手を出してしまってはいけないのだと。なにがあっても、インストールしてはいけないのだと。
別に、ゲームのことを毛嫌いしているわけではないのです。時間の無駄だとか、得るものがないとか、そんなことは一切思いません。逆に、友人との会話のきっかけになってくれたり、協力したり、そういうコミュニケーションの架け橋になってくれるとても良いものだと思いますし、何よりゲームをしている最中は楽しい。それは間違い無いのです。
嫌いでは無いのです。
好きすぎるのです。
好き過ぎて、生活がままならないのです。
アプリを開いて、ゲームを始めた途端、一瞬にして時間が吹き飛んでいってしまうのです。
ぱっと顔を上げると、いつの間にか日が沈んでいるのです。あれ、さっき昼飯食べたところだったような、と途方に暮れるのです。
大学に通っていた時なんかはまさに全盛期だったと思います。ちょうどスマホゲームというものが世に出てきた頃。同学年のフレンド達とワイワイやっていたわけです。
ただ、あまりにも没頭し過ぎて、生活がスマホゲームに支配されてしまったのです。スタミナが溜まる時間が気になって授業に出られない。キャラクターを弾くためのガチャに必要な「石」を集めるために友人との約束が守れない。ガチャで欲しいキャラクターが出なければ熱い感情が迸るのです。ゲームをしていて、気がつけば朝4時とかざら。
もうね、生活が成り立たない。
ある日、これはいよいよマズいことになりそうだと怖くなり、清水の舞台から飛び降りる覚悟で私はアンインストールしたわけです。何十、何百時間ついやして育てたキャラクターたちは、一瞬で消えてしまい、喪失感と虚無感に苛まれ、その日以降、スマホゲームは2度とやらないと決めました。
あのアンインストールの日からもう5年。
新しいスマホゲームもたくさん出てきました。
とはいえ、5年間もゲームをしていなければ、ゲームに関する情報なんて一切入ってこないし、そもそも興味が湧きません。新しいゲームが出てこようが、友達が何か言っていようが、知りたいとすら思わないのです。
だから、それなりにいい距離を保つことができていたのです。
では何故ウマ娘にはまったのか。
競馬が好きだったのか。
いいえ違います。
確かに、競馬を見に行ったことはあります。
人生でたった一度だけ。
忘れもしません。
阪神競馬場。私がまだ大学生の時。
友人に誘われ、貧乏学生だった私は、口座から三千円(奨学金)を引き落として行きました。
まだコロナのコの字もない時期。
競馬場にはものすごい量の人がいました。
目の前を力強く走る馬。それはとても格好よかったことを記憶しています。
が、当然馬のことを知らない私はなんとなくで馬を選び、よくも分からず馬券を買っていたものですから、私の選んだ馬はレースの後ろの方にいました。最終レースで周囲が「行け! 行け!」と盛り上がる中、私は早々に負けを知り、それほど感情がたかぶることもなく、選んだ馬が最後尾でゴールを切るのを呆然と眺めていたのです。
財布の中にあったなけなしの三千円(奨学金)は、あとかたもなく消えてしまいました。
今思えば、あれは、ギャンブルの神様が私に警告してくれたのだと思います。お前は一度ハマると自制が効かなくなって大変なことになるから、こっちの世界にはくるな、と。
とまあ、スマホゲームはやらない。競馬もやらない。そんな私にとって、「うま娘」は縁遠い場所にあったものです。
ではなぜ、はまってしまったのか。
きっかけは、音楽です。
Youtubeのショートを見ていると、動画がながれますよね。縦にスライドすると、次から次へと楽しげな動画が流れるやつ。手が止まらなくなって、気がついたら数時間がパッと消えてなくなっているあのやっかいなやつ。
あれで、流れてきた動画に、ウマ娘の楽曲が使われていたのです。
これを読んでくださっているあなたも、YouTubeのショートを見ていれば一度は聞いたことがあるかもしれません。「きみの愛馬がずきゅんどきゅん走り出す」あの歌です。ポップでキャッチーで一度聴いたら耳から離れません。
あれを聴いてからというもの、ふとした瞬間に頭の中でサビの部分が流れるようになってしまったのですね。電車にのって景色が流れる様子を見たり、横断歩道で信号機が点滅して小走りになったりしたときに、ずきゅんどきゅん流れはじめるのです。サビだけ。
そうなると、一体どんな歌なのだろう、と気になってくるわけです。
別にスマホゲームをしようとは思いません。5年も距離を置いているのですから。はまってしまったら辛い思いをするのは私自身が知っているのですから。
曲だけ。
曲だけ、どんなものか聞いてみたい。
そんなつもりで、Youtubeで検索しました。
そこで初めて知るのですね。
うま娘というのは、実際に競馬で活躍したウマの擬人化であること。
うま娘たちが、競馬場で熱いレースをすること。
そして、レースに勝ったウマ娘は、アイドルのようにステージで踊り歌うこと。
もうね、肝を抜かれました。
楽曲もさることながら、その3Dモーションのクオリティにも。
5年もゲームを知らない人間は、スマホゲームの進化に完全に取り残されていたのです。田舎の山奥で育ち、初めて東京に観光に来て、渋谷駅前のスクランブル交差点を見て文明の進化に打ちひしがれた中二のころの私の衝撃と同じ。
うま娘が、ステージの上で歌っているのです。歌番組に出ているアイドルのように、魅力的なカメラアングルで、まるで本当にステージの上で歌っているかのような、素敵な笑顔を振りまいて、ダンスして、歌っているわけです。
「こんなー思いはー、初めてー♪」
こっちだって、こんな思いは初めてです。
気がつけば、インストールしていました。うま娘。
調べれば調べるほど、競馬に詳しくなる土曜日の昼下がりです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます