遭遇
レティシアとルモウドはともかく、オルフェは、護身用の短剣しか帯びていない。
彼が工夫した大包丁と、ルーク殿下から拝領した長剣は、せんだっての大蜘蛛との戦いで破損してしまっている。
一方の襲撃者たちは、いずれも闇夜の戦闘に適した黒装束。抜いた刃まで黒く塗り込められているということは、暗殺を主として、活動する専門のチームなのだろう。
だが、ここは期を先した彼らに利があった。
突如の閃光に、彼らはみな視覚を失っている。
そこに、3名が切り込んだ。3人は瞬時に倒された。オルファが相手にしたひとりは、短剣で首をかききられている。
暗殺者のリーダーらしき男は、逃亡をはかった。
追いすがるオルフェたちの前に、最後のひとりが捨て身で立ちふさがった。
レティシアの剣で、剣をとばされ。
すれ違いざまに、ルモウドに胴体を薙ぎ払われ。それでもオルフェにしがみつく。
それを蹴飛ばして引き剥がす間に、襲撃者のリーダーは、塀をよじ登り、壁から壁へ跳躍した。
周りの建物は、王都の中心地ということもあり、4階から5階の高層のものが多い。建物同士も密集しているのだが、それにしても建物から建物へ、ろくに手がかりもない壁面にへばりつくようにして、移動するのは、至難の技には違いなかった。
「ヤるな! 迷宮研究会!」
建物の屋上から襲撃者は、叫んだ。
「いや、わたしたちは迷宮研究会じゃなくて・・・」
というサリアのクレームは平然と無視された。
「聞いた声だぞ。」
オルフェが言った。
「たしか・・・」
ぐるん。
それは闇にシルエットとなって溶けていたが、単なる木にしか見えなかった。見事に枝をはった巨木のその枝が、ぐるぐると回転しながら、襲撃者のリーダーの体を刺し貫いた。
悲鳴をとめるように、体の内部から伸びた枝が口腔からも突き出した。
「魔族だ!」
レティシアが叫んだ。
木のシルエットから人の姿が分離した。
巨大な枝に変形した右腕をそのままに、人形は襲撃者のリーダーをぶらさげたまま、迷宮研究会の前に降り立った。
「お初にお目にかかる。迷宮研究会だね? きみたちが。」
いや、そうではなくて、というサリアの声は無視された。
魔族は、手を一振りして、襲撃者の遺体を路上に放り出した。
巨大な木の枝に変形していた右腕は、みるみる普通の人間の手に戻った。
「おまえはなにものだ?」
「うん。それも大事だとは思うが、もっと重要なことがあるよ。」
上下続きになった黒装束は、体にぴったりしていた。顔はごく普通の人間・・・14、5の少年に見えた。
右手が再び、木の枝に変形して、路上に横たわった襲撃者のリーダーの覆面を引き剥がした。
「こいつ」
レティシアが、眉をひそめた。
「確か、ルークのところで取り継ぎにでてきた従者だ。」
「その通り。
察するに、きみたちは、ルーク殿下の私兵となるように、要求されて、それを断ったんだね。」
「その推測が当たっているかはともかく」
レティシアが唇を舐めた。
「なぜそう考えたのか聞こうか?」
「いままでも同じようなことがあったからだ。」
魔族はにやにやと笑った。
「次に同じことが起きたら、助けようと思っていた。きみたちは運がよかった。」
そう言って魔族は一礼した。
「わたしは、マルコ•グレン。魔族のなかでは『分離派』に属する。
きみたちがもし魔族を敵とするならば、われわれは大いに協力し合えるものがあると、思われるのだが。」
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