襲撃

「いつもあんな風なのですか?」


帰りの馬車の中で、モールが聞いた。


「いや・・・」

なんと答えたらいいのか、わたしにもわからない。本心を用意に見せない不気味さは、確かにあるのだ。

だからと言って、ルークは非情とか悪質なとか、そういった負の部分とは対極の人間である。まるで、わざとわたしたちに無理難題をふっかけた・・・そんな風にすら感じられる。


「いつもあんな感じだった。」

オルフェがずけずけと言った。

「あいつはものすごく頭がいい。常に2手も3手も先を考えて動いている。

それをいちいち説明できない場合だってあるんだ。特に、迷宮の中で任務中のときとかな。俺は、大体わかってるつもりだったが、それでもイラッとすることは、あった。

ジークとメリクリウスは、いつもイライラしてたらしい。

だが、あの聖女さまが、焚き付けなければ、いくらなんでも。」


オルフェは、考え込んだ。


「迷宮ないで謀殺しようまでは、思わなかったな。」


「『聖女さま』というのは、侯爵家の御令嬢のドリテアのことか?」


レティシアが反応した。


「そうだな。あいつは、とにかくプライドが高くって自分より、オツムの優れた人間がいるってだけで、許せないタイプのだ。

俺は勇者で、ジークは剣、メリクリウスは魔法、それぞれの専門分野に特化した存在は、まあ、許せたんだが、全体を仕切るルークはどうにも我慢ができなかったらしい。

結構な罵詈雑言を浴びせたり、いや、あいつにだけ治癒魔法をかけたふりだけしたり、自分のミスをあいつになすりつけたり、まあ、結構やっていたな。」


「その話は初めてきいた。」

わたしは、オルフェの顔を覗き込んだ。元勇者は、無精髭にパン屑をつけたまま、ニヤリと笑い返した。


「話してもしょうがないだろう。ルークをぶち殺す決断をしたのは、最終的には俺だ。今さら、侯爵家を敵に回してもどうなるものではない。」


「ドリテアは、もう留学からは戻っているはずだ。」

レティシアが、ぎりぎりと歯を食いしばる音を立てた。

「あの女狐が。そんな動きをしていたのか。」


ガタン。


と馬車が揺れた。


「おいどうした・・・」


身を乗り出して、御者席に呼びかけたレティシアが、咄嗟に剣を抜く。

がきっ!

鈍い音がして、その剣が何かを弾き飛ばした。


馬車が大きく傾く。御者を務めていたバロンヌ伯爵家の使用人が、あるいはその死体は、馬車から振り落とされた。

レティシアが代わりに手綱を握る。ガンガン!

さらに飛来した「何か」をその剣が弾く。だが、そのうちの一つは馬に命中したらしい。前足を上げていなないた馬は、めちゃくちゃな息おきで走り出した。


「飛び出ろ!」


レティシアの声で、わたしは、ドアを開けて夜道に体を投げ出した。そのわたしの体をオルフェが支えてくれた。

モールは、と見ると流石に斥候を務める少女は、敏捷で、飛び出した勢いで体を回転させて、すっくと立ち上がった。

レティシアは、マントを広げて、高くジャンプする。


おそらく投擲物による攻撃を自分一人に引きつけるつもりなのだ。


「お、おるへ。」


オルフェが支えてくれたおかげで、わたしは、石畳に鼻をぶつけただけで済んだ。鼻血でうまく喋れないが、実害はそれだけだ。


「て、てきシウ・・・」

「わかってる。」


オルフェは、言っておくが、剣を2本とも修理に出してしまった丸腰なのだ。

マントを剥ぎ取って、ヒュンと一振り。飛来した短剣を絡めとる。

地面に落ちたそれを、わたしは眺めた。


全体を黒く塗られ、鍔はない。全体には矢に近く、先に返しがついていた。

投擲用の、しかも夜間戦闘用の。

暗殺用の武器、だ。


「モール! ルモウドを呼んでくれ!」


言いながらわたしは、懐から球を取り出して、投げ上げた。

一瞬の眩しい光が、通りを照らす。


投げ矢を投擲していたのは、五人いた。いずれも黒装束。わたしはサングラスをかけてそれを見つけた。そうでないものたち。

襲撃者はこの光で目が眩んでいるはずだ。

レティシアと、オルフェは。

よし、当然、ルモウドとの交代のために何が必要かをきちんとわかって、目を閉じている。



「サリアさま!」

美剣士は、わたしに優雅に一礼した。

いや、そういうのはいいから!


「蹴散らすか? レティシア、ルモウド。」

「一人二人残しておけ。口が聞けるように、だな。」

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