解体作業
そのまま。
両手に剣をもって、オルフェは突進していった。
全力疾走である。
あわてて、ドルモは魔法の詠唱に入った。
マザー・・・ジャイアントスパイダーの変異種は、オルフェに気がついた。
おそらく、その行動は、相手の意表をつけたのだろう。
まっさきに突っ込んくるオルフェに、口から紫の液体がほとばしったが、それはワンテンポ遅れている。
オルフェはまったく速度をおとさないままに、サイドステップしてかわした。
クソっ。目が霞んでくる。迷宮研究家はうめく。苦痛と。戦況を確認できないもどかしさ。
「レティシア! なんでもいいから、目くらましの魔法を撃って!」
レティシアは、詠唱もせずにファイヤボールを打ち出した。
火球は狙い違わずに、マザーの複眼の間に命中した。
・・・だが、それだけだった。その頑丈な外皮は、傷すらついていないようだった。
マザーは怒りの声を上げた。
だが、その瞬間に、オルフェはマザーの足元に到着していた。そのまま、脚を伝って頭部に駆け上った。
頭部に長剣をたてる。
たが、レティシアの魔法でもびくともしないその外皮には、しょせんはただの鉄である彼の剣がたつはずがない。
マザーが身体を揺すった瞬間に、オルフェは飛び上がった。
「いきます。」
ドルモが手を伸ばした。指にはめた魔法強化の指輪が輝いて・・・砕けた。
魔力の過負荷だ。ドルモの顔が苦痛にゆがむ。
「破砕星来たれ。」
なにかが。空間の果から飛来した。
まるで流れ星のようにパーティのメンバーには見えたが、そんなはずは無かろう。ここは迷宮の深部なのだ。
狙い違わず、その光るなにかは、マザーの額に着弾した。外皮が破れて、緑色の粘液が吹き出した・・・だが、その巨体に対して傷口はあまりにも小さい。
マザーにとってもそれはダメージというより、怒りをかきたてただけのようだった。
再び頭上に舞い降りたオルフェを振り落とそうと巨体をゆすりつつ、マザーはドルモめがけて突進してきた。
その頭の上の傷口にオルフェは剣を差し込んだ。
そのまま梃子にして周りの外皮を持ち上げる。そこにもう一本の剣・・・それは剣というよりは、刃の肉厚さ、形状から見てまるで包丁に見えた・・・を差し込む。
斬撃・・とはほど遠い。まるで、かたすぎる肉を切り分ける肉屋の仕草にみえた。
それは、マザーにとっては明らかに不快であったのだろう。脚をとめると本格的にオルフェを振り落としにかかった。
だが、オルフェは差し込んだ剣を外皮に挟むように突き立てて、離さない。
もう一本の剣をなんども、動かして奥へ奥へと剣を送り込む。
まるで、同じところを何度も擦り、一撃では切れない組織をそうして切断していく。
ドバッと、緑の粘液が激しく吹き上がった。
オルフェが、傷口に手をいれた。ぶつん。なにががちぎれる音は、パーティのものたちのところまで聞こえた。
オルフェが手に掴んだものを放おった。
サリアの足元にちょうど人の腕ほどもあるそれが、べちゃりとおちた。
「すごいな白金貨5枚分はある。」
サリアが、ただれて膨れ上がった顔で笑った。かなり怖い光景で、レティシアもドルモも引いている。
「なんだこれは?」
「冒険者をやってて知らないか? これは、大蜘蛛の神経節の一部だ。精力剤の原料になる。
これだけの大きさの蜘蛛はいないから。」
ひょっとすると白金貨8枚でもいけるか。
さらにその足元に今度は、赤い結晶が投げ落とされた。
「こんどは!」
「蜘蛛が人間を捕食したあとに残す結晶体だよ。食べた人間の数によて体内に形成される。
反魂に使えるとかで、その手の研究者には垂涎の的だ・・・が。
はたして効果はいかがかな。いやわたしとしては、高値でさばけるのは間違いないのでそれでいいのだが。」
サリアは、マザーの頭部のオルフェに手を振った。
オルフェも手を振りかえした。
マザーはまだ生きている。
オルフェをおそらく、天井にはさんで押しつぶすために跳躍の準備をはじめていた。
「まずいな。妨害できるか? ドルモ。」
「魔力が枯渇してる。」
女魔法使いは、青い顔で言った。
「わたしがやる。ようは跳躍を止めればいいのだろう?」
レティシアが胸につけた護符をもぎ取った。そのまま握りつぶした。
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