冒険者たちの戦い

迷宮研究家は、モールを美剣士ルモウドに交代させた。

登場した剣士は、サリアに丁寧に一礼した。


さて、バロンド伯爵レティシア閣下は、奇行と女癖の悪さで知られているばかりでは無い。

高位の、名門の貴族でありながら、自ら冒険者として潜り、切り裂き、凍らせる。

その腕前と豪胆さにおいて、畏敬の念を持って語られる存在なのだ。


実際、彼女の発生させる冷気は、白骨宮殿へと浸透し、張り巡らされた蜘蛛の巣を凍結させていく。

そうなってしまえば、それはもはや「巣」としては役にたたなく、なるらしく、粘着力を失いもろくなったそれからは、蜘蛛共が這い出してきた。

寒さのために動きが鈍くなったそいつらを、元勇者と剣士が次々とトドメをさしていく。


それは戦いではなく、流れ作業を見ているようだった。

精妙な斬撃を得意とするルモウドには、物足りないようだった。

なにしろ、相手はろくに動けないのである。


のたのたと這い出してきたところを、ぶすり。


元勇者は、長剣で相手を串刺しにしたあと、大包丁で、頭を割っていく、


「蜘蛛にも個体差があって」

迷宮研究家が言った。

彼女の、悲愴な顔つきなのは、実は、これからいよいよ、白骨宮殿内部に侵入することへの不安ではない。

彼女がこれからやろうとしていることが、このクエストの大幅な赤字を確定させてしまうからだった。

「寒さや冷気に強い個体がいるのかもしれない。」


「そいつらなら、さっき、大挙して押し寄せたよなあ。」

オルフェが言った。

「うまくすれば、まともに、動ける蜘蛛はもう残ってなくて、このままボス蜘蛛にたどり着けるか?」


「そうも行かないようだ。」

レティシアが笑った。

笑いながら、迷宮の一角をまるまる凍りつかせているのだ。それに対する集中、魔力の消費量は如何程のものなのだろう。


空気中にキラキラと結晶化した氷の粒が漂う。

直接、冷気をむけられていないはずの彼らの指も凍える。


その中。

すばやい動きを失わないまま。殺到してくる蜘蛛の集団があった。


「動ける蜘蛛をここに集中させていたな。 」


単なる氷の破片となった「巣」を踏みしめて行進してくる蜘蛛は100を超えている。

大きいものは牛ほどの大きさがあった。


「さて、もう一度、ドルモにお出ましを願うか。」

オルフェは、気安く美剣士の肩を叩いた。


「まだ、だ。」

迷宮研究家サリアは、冷たい目でオルフェを睨んだ。


「おいおい、この数を切り殺すのか?」


サリアは自信なげに答えた。

「切り殺せるだろう?」


「あのなあ。」オルフェは大袈裟にため息をついてみせた。「いくら腕がたっても剣の方がもたない。やつらの体液がつけば切れ味も鈍る。刃もこぼれるし、剣が折れることだってある。」


「それはそうだな。もっともだ。」

サリアは、ため息をついて、バッグから球を取り出した。

「ルモウド、モールと代わってくれ。」


閃光が行軍する蜘蛛の複眼を焼いた。

顔を伏せて閃光をやり過ごした一堂が顔を上げると、元気な斥候が腰に手を当てて、こちらを睨んでいた。

「このタイミングで、なんでわたしを」


「この前、“ 凍らない氷湖”に行く時にやった方法をとる。」


サリアは、全員がすっぽり入れる 大きさの布を取り出した。


「もともとは飛ぶ相手をおとすための攻撃だ。全滅させるほどの効果は期待できないが、大ダメージは与えられる。止めは全員で行おう。」

サリアは手馴れた手付きで、先程とは違う種類の玉を取り出した。

「みんなはこの布を被ってくれ。

さん、に、いちで発動させる。」


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