試したいこと
「サリアの案でやってみる。それだだめなら撤退。それで十分だ。」
オルフェが言った。
「雑魚どもを削れれば、試したいことがある。おまえらは撤退していいぜ。」
「何を言っている!」
ここに来て何を抜かす。
わたしは、オルフェの胸ぐらを掴んだ。
「同じパーティなんだ。一緒に脱出しろ。」
「まあ、俺も、迷宮で一人で置いてけぼりにされる気持ちを一度、味わっとかないと人生、フェアじゃないと思っただけだ。」
元勇者は、ある意味もっともなことを言って、肩をすくめた。
「自分の命は何より大事にする卑怯者が言うことだ。まあ、心配だったら遠巻きで見ててくれてもいい。ひょっとしたら、治癒魔法が必要になるかもしれないしな。」
何を考えているんだ。
オルフェの顔は相変わらず。意味のないニヤニヤ笑いを貼り付けたままで、そこにはなんの感情も読むことは出来なかった。
しかし、昔も今も、嫌なことは露骨に顔に出る。
つまり、こいつは!
今の!
この状況を楽しんで嫌がるのだ。それは間違いない。
「なにをたくらんでるんだ、オルフェ。」
なにをこいつが考えているにしろ、それほど時間は無い。いつまでも、ここで押し問答をしているわけにはいかなかった。
「あ、その、なんだ。」
オルフェは評判通りの馬鹿であることが、よく分かる。別に秘密にするようなつもりもないの、言葉が出でこないのだ。
「ためしたいって言っただろ。
つまり聖剣がないくても、俺が魔物に対してどこまで戦えるのか、ためしたいんだ。」
「その装備で、か。」
わたしは絶句した。
鎧が軽装なのはよくあることだ。
よく、それものの冒険小説には、フルアーマーの重騎士がパーティにいたりするものだか、何日もそのまま、過ごすよう場合、それはありえない。
留め金でセットするような本格的な鎧は、自分では脱ぎ着ができず、排泄物も垂れ流しだ。
問題は武器の方だった。
オルフェの長剣は、いい鉄を丹念に叩いて、しあげた業物だった。
だが、これから対峙しようとする変異には通らない。
恐らくはサイズがとんでもなく大きい。
硬い外皮にただの鉄がどの程度の傷を与えられるかは疑問だったし、仮に貫けたとしてもそんな針の先で、チクチクする攻撃で相手に効果があると
は思えないのだ。
今回、それを補うつもりなのか、オルフェはもう一本、剣を携えている。
これがなんとも奇妙な剣だった。
片刃で肉厚。
これだけ、頑丈に作れば折れたり曲がったりはしにくいだろう。だが、なんというか、ただのでっかい包丁にもみえるそれは、そのぶん動きも鈍重そうだった。
そして切れ味もたいしたことがないのは、さきほどの戦いでわかっていた。
「まあ、あくまでやってみないとわからねえ。」
オルフェは白骨迷宮に向かって歩き出していた。
「雑魚どもを処理してもらえると、ありがたかったんだが、まあ確かにそれもふくめて、俺の仕事かもしれん。
ここまで付き合ってもらって感謝するぜ。」
「死ぬ気か!オルフェ。」
「馬鹿を、言ってくれるな。勝算があるから行くんだぜ。」
「あんなやつ、だったか?」
レティシアが呟いた。
「わたしは、ここで回れ右をして、十二層で活動中の冒険者をかき集めて、ことに当るつもりだったのだが、」
なるほど。爵位もちの、レティシアならその依頼に従ってくれるパーティもあるだろう。
白骨迷宮は、複数のパーティでも充分、広い。
モールが、問うようにわたしの顔を見上げている。
「だが、時間が惜しいのも事実だ。わたしたちは、うっかり変異種を刺激してしまった。
反撃は直ぐにくる。体勢を整える時間はない。」
わたしは言った。
「オルフェを追うぞ。ボスに歯が立たないにせよ、雑魚を削っておくのは悪くは無い。
レティシア、さっきの冷気の魔法を送り込んでくれ。巣ごと凍りつかせてやる。」
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