奮戦

一撃の魔法では、殺到する数十体の蜘蛛をどうやって迎撃するのか。


わたしの疑問に答えるように、魔法使いの生み出した青白い炎は、数十本の腕と化した。

あるものは炎の剣を握り。あるものは槍を風車のように回し。あるものは巨大な燃える槌を振り上げ。

蜘蛛は、どの程度危険を察知する知能があるのだろう。

恐れを知らずに、牙をむき突進する蜘蛛は、次々と、刺し貫かれ、切断され、叩き潰され。


そして燃やされていく。

生き残った蜘蛛が、逃走にうつった。

彼らもまた、個々の生命を大事に思うのだろうか。だが、魔法によって生成された腕がそれを捕まえ、握りつぶした。


それは十、呼吸する間くらい続いたのだろうか。


殺到してきた小型の蜘蛛はすべて、無惨な燃えカスとなっていた。


代償は魔力の枯渇だった。


魔法使いのドルモは、青い顔で今にも蹲りそうだ。


「交替する。全員、目をつぶれ!」

わたしは叫んだ。


再び、目を開けると、妖艶な美貌の魔法使いの姿はなく、ボーイシュな斥候のモールが不満げに立っていた。


「みんなドルモをじろじろ見すぎ。」

少女と言ってもよいモールは、腰に手を当てて、一同を見回した。

「彼女だって好きで色っぽいわけじゃないんだから。」


見たところ、モールは元気いっぱい、先程のダメージは微塵も残っていなかった。

ルーモの治癒魔法もまた、Sクラスに違いない。

そして、彼女たちは、「待機部屋」でその恩恵を受けることができるのだ。


さて、どうする?

と、リティシアがいたずらっぽく笑いながら言った。

撤退するなら、最後のチャンスだぞ?


「俺の意見を言っていいか?」

元勇者は、手を挙げた。みなが嫌な顔をする中、どうぞ、とわたしが言うと、彼は咳払いをして続けた。


「俺たちのことだけを考慮するなら、撤退すべきだと思う。」


「理由をきこうか?」


「ドルモの攻撃魔法は、最大出力で放てるのがもう一度あるかどうか。

あとは、集団で押し寄せる蜘蛛に対して有効な攻撃手段が俺たちにはない。」


「俺たち、と言ったね。」

リティシアが目を細めた。

「俺たち以外の立場からすれば?」


「ここでやつらを引き付け、殲滅する。」

オルフェは、ため息をついた。

嫌でたまらないことを無理やりやらされる駄々っ子の表情だった。

「そうしないと、やつらは白骨宮殿から溢れ出し、十二層を占拠する。その過程で今現在、十二層で活動中の、いや十二層より下で活動しているすべての」


そんなにいやならやめたら?

そう誰かが言ってくれるのを待つように、オルフェは一瞬、間を置いたが、諦めて続けた。


「・・・冒険者連中が、壊滅的な打撃を受ける。

A級、B級の上位チームでも、難しい。


ここは攻略が進んだ階層だ。

安全地帯とされたところでは、冒険者はそれなりに気を抜いてしまう。

後で、あらためてやつらに特化した、掃討部隊を送り込めれば、その方が確実だろう。

だが、それでは『今日』起こる損害を止めることはできない。」


ああ。


いやだ。


そう、オルフェは締めくくった。


「こいつの分析が正しいなんてこと、あるの?」


リティシアが、楽しそうに言った。


「いや、俺は何しろS級冒険者チームのリーダーで、新公爵閣下とは幼馴染。その戦い方も思考方法もバッチリ頭に入っている。


だが、面倒臭いとか、汚くて嫌だとか、痛いのはごめんだとか、命が惜しいとにかくそういう欲求に正直なんだよ。」


「人間の屑だと自白してるわよね。」


全員の目が、わたしに集まった。

わたし、なんとか逃げ道を探して周りを見回して、それから答えた。


「モール。蜘蛛たちが集結してるところを探して。先制攻撃をかけましょう。

わたしが、この前、七層で使ったのと同じ方法をとるわ。それでも数が削れないようなら、ドルモの攻撃魔法。」


そのままみんなに、頭を下げた。


「本当は一番に脱出できるはずのわたしたちが、とんでもない貧乏くじだと思うけど、そこまで付き合って。

それでダメなら撤退しましょう。」


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