欲しいのはあなた
用意された個室に入ったモールは、オルフェを見て表情を固くした。
それはそうだろう。
犯罪者になるところを、公爵閣下の温情で罪を免れた大罪人。冒険者としてはもう終わった男。
こんなやつと会ってるところを見られただけでも、冒険者人生に差し障るかも知れない。
モールには、これから会う相手が誰かは、話していた。
モールたち「蛙が冠を被るとき」と共に、迷宮に潜り、その能力を調査するように依頼を受けたと。
モールは(というか四人は)わたしとパーティを組みたがった。自分達の能力を引き出してくれるパーティリーダーになってほしい、と。
わたしもその提案には大いに興味があった。
これだけの能力を持つパーティ。だが、事情は事情として説明しなければならない。
とにかく、オルフェに会って話を聞いてみる。
そこまでは納得してくれた。
この前に会ったのと同じ店である。
迷宮から一歩出ると、地図は読めんわ、方向音痴だわで、優秀な斥候たるモールがいなければまた迷子になったかも知れない。
オルフェは、わたしたちを座らせて、グラスに酒を満たして進めた。
「よく来てくれた。」
愛想笑い、と言ったら可哀想だろう。一応ホストとしてこちらをもてなしてくれるつもりらしい。
「まだ、サリア・アキュロンからは、君たちの能力については、何も聞いていない。だが、うまく使えばS級も狙える逸材だと、だけ聞いている。」
モールは、上目使いに元勇者を見て、どうも、とだけ言った。
全然、信用していない。
「俺は君たちを俺のパーティに誘いたい。もし話を聞く価値もないと思うんなら、このまま立ち去ってくれて構わない。」
「そうですね・・・お断りしたいです。」
早い。
「・・・でも、サリア・アキュロン先生から、わたしたちの新しい可能性を教えてもらいました。
もし、わたしたちを指揮できる、信頼できて迷宮の知識にも詳しいリーダーがいれば・・・」
モールは若い。
まだ子供と言ってもいい年齢だ。(でも「先生」はやめていただきたい)
だが、その目は鋭い。
「蛙」たちが話題になり始めてから、1年以上は経っている。それなりに経験を積んだ冒険者に違いない。
「あなたはわたしたちのリーダーになれますか?」
オルフェは呆れたようにお手上げ、のポーズをとった。
「・・・なに言ってる? 無理に決まってるだろうが。」
・・・はあ?
飲みかけた酒が、口元からダラダラと流れた。
ここにきて何を言い出す?
そのためにモールたちに目をつけたんじゃないのか?
「俺は自慢じゃないが、あれだ。脳筋、と言うやつだ。」
オルフェは、自慢げに胸を張った。胸を張るところもおかしい。
「止めの一撃か、真っ先に突っ込んで大魔法の時間を稼ぐか。
俺にできるのはどっちかだ。
言っちゃ悪いが、モンスターの知識もないし、迷宮の中でも平気で迷子になる。
実際、ソロになってからは迷宮には一度も潜っていない。」
「じゃあ、誰がわたしたちを指揮してくれるんです?」
「全くだ。なんのためにモールたちパーティを組みたいんだ?」
再び、オルフェは、心から呆れたと言わんばかりに、大きなため息をついた。
お前がそうすると無茶苦茶、腹がたつからやめろ。
「なあ・・・オルフェ・・・」
「おまえだぞ、サリア・アキュロン。」
・・・・な・・・・
んだと?
「おまえも俺のパーティに来るんだ。おまえがパーティリーダーとして、指揮をとれ。」
はああああ!?
「き、聞いてないぞっ!」
「言ってないからな。」
こいつは・・・少なくともマイペースなところは治ってない。いやむしろひどくなってないか?
「それなら問題ありません。」
モ、モールぅ。
「サリア・アキュロン先生が指揮をとってくれるなら、わたしたちはあなたのパーティに入ってもいいです。」
「ちょっと待て!」
わたしは立ち上がった。
「わたしは迷宮研究家なんだ。ギルドからの依頼なんか受けないし、よくわからない探索で何日も拘束する。
危険だっていっぱいだ、正直、わたし一人の方がいいんじゃないか。何かあっても死ぬのはわたしだけだし。」
「しかし、名声を得られそうですね。今のわたし『たち』には一番必要なものですね。」
そう言ってオルフェを振り返った。
「わたしが確認したいのは、一つだけです。
元勇者オルフェ。
あなたはわたしたちのパーティで一体何をしてくれるんです?」
「ああ、そうだな。それはもう考えてある。」
元勇者は、当たり前のことを言うように宣言した。
「俺は、サリア・アキュロンを護る役目だ。」
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