元勇者の依頼
まさか「ルーク」をもう一度パーティに勧誘してほしい。ではないよなあ。
元勇者どの?
「バカ言ってくれるな。
あいつは今ではこの町の英雄だ。いや町どころじゃないこの国の英雄だ。
Cクラスまで落ちた冒険者が勧誘していいような人間じゃない。
いや、それどころか、いやいやそう言う奴は第五王女と結婚が決まったはずだ。
これで、貴族の仲間にだな、話しかけるのも難しいわ、アハハハハハハ。」
「多分今月中には空席になっているパレス公爵家を継ぐことになるはずだ。」
私がそう言うと勇者だった男は片目をつぶって肩を進めた
「じゃあ、話そうとしただけで不敬罪か。
しかし、パレス公爵ってなんだ? きいたことがないが。」
「パレス公爵っていうのはな、領地の代わりに首都の管理をする爵位だ。
普段は空席なんだが、稀代の英雄にいい加減な領地も与えられんし、なにしろ陛下が何より大事にしている第五王女殿下だ。嫁に出した後も、手元に置きたいんだろう。
パレス公爵なら、帝都に常駐できるし、うってつけじゃないか?」
『元』勇者はため息をついた。
「おいおい、俺はそんな男を罠にはめてぶち殺すそうとしたんだぜ。」
パーティー追放聞いたけど、ぶち殺そうとしたまでは聞いてなかった。
私はそう言うと勇者は何を今更と言ったような顔で私を見つめた。
「未踏破の迷宮深層で、パーティを追放することがどういう意味かわかれよ。
罠にぶちこんで、おまけに攻撃魔法までぶっぱなしてるんだ。
なんまあ単なる追放ということになってるんだったらそれそれはそれでまぁいいのか。
あいつ自身がそれでいいと言ってくれてるってことだからな。」
全くのところ、この国はこの1年ろくなことがなかった
コハク迷宮のモンスタースタンピート。
封印された魔神の復活。
第二皇子の婚約破棄騒動が始まる、同盟国の裏切り。
それそれを裏で操っていた太古の魔導師の暗躍。
もし彼がいなかったら。この
この国は。王都は。
そしてこの世界の半分は闇に包まれていただろう
そう思うと、この男がこうして生きて酒を飲み飯を食らい笑って息をしていることすら重罪に覚えてくる。
それでもなお、わたしはここを出ていくにことができなかった
人間は愚かだ。
そしてこの男はその中でも群を抜いて愚かだ。
そしてそれだけだ。
そして、この男は少なくとも自分が愚かだったのに気づいている。
「それで何を頼みたい?」
「ありがたいな。
話は他でもない、あるパーティのミッションに同行してほしいんだ
そいつらを、あんたに評価してもらいたい。」
「その、パーティを評価すればいいのか?」
わたしは首をかしげる。
「意味がわからないな、わたしはこれでも学者の端くれだ。
迷宮のことは、専門だが、冒険者の能力を判断することやパーティーの評価は専門外だぞ。」
「だからいいんだ、実際にメイクの中でそのパーティーがどんな風に動いているかを見て、それがやつらにとてってベストな動きかを判断してほしい。」
「で判断してさせてどうしようと?」
「あんたの評価教えて欲しいんだ、俺はそいつらを自分のパーティにスカウトしたい。」
いささか顔が悔しくなってたかもしれない。
言い訳をするように元勇者殿は、先を続けた。
「『蛙が冠を被るとき』って知ってるか?
ここ半年、王都でで活躍している売り出し中のパーティーだ。
クラスはCだったかな? 斥候、剣士に魔道士、腕利きが揃っているようだが、任務の達成にムラがある、正直こっからBに上がるのは難しいかもしれない。」
「そこに落ちぶれ元勇者を追加すると?」
「オレがいま、落ちぶれてるのは関係ない。オレの経験をプラスすることで、とんでもなく化ける可能性がある、とオレは思っている。」
「ふうん? 勇者のカンってやつか?」
「自惚れと女好きで、身を持ち崩した勇者の、な。」
わたしは、黙って立ち上がった。
「・・・だめか? この世に唯一無二の「迷宮研究家』サリオ・アキュロン。」
わたしはため息をついた。
「正直なところ、いまのあんたは、そう悪くはない。ずいぶんとマシになったと思ってる。
ただ、世間はそうは見てないだろうし、本当に正直にいうと、あんたに関わったと、ほかの冒険者にはあまり知られたくない。
だから、あんたとはなんの約束もしない。契約も結ばない。
ただ、近々、災厄宮に潜るときに、護衛パーティとして『蛙が冠を被るとき』を指名するかもしれない。
そのときの感想でよければ、語ってやるよ。」
オルフェは、惚れ惚れするような笑顔で私を送り出した。
・・・・
いや、ほんとうにいい笑顔だった。
いやいや冗談ではない。わたしが落とされてどうするのだ。
他はともかく、女たらしは治っていないな、オルフェは。
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