第3話 呼ばれた訳
それからしばらくが過ぎた。
ちょっと気まずくなった事もあったけど、ヘッドホンのお姉さんは以前と変わらず、ひょっとしたらちょっとずつ頻度は増えている?ペースで、うちに遊びに来ていた。
俺も姉も、そして多分友達さん自身も、ヘッドホンの話題には触れないままでいた。
そして、相変わらず姉も、自分から友達に料理を振舞う事は無かった。たまには、作ってくれていいんだが?
そんなこんなで、俺が大学に入ってから、初めての夏を迎えようとしていた。
そう、大学生として初の夏休みだ!!
「1週間のバンド合宿の手伝い?」
「そうそう。同じメンバーで去年の夏もやったから、勝手はわかってるんだけど、まぁ、問題点もわかっちゃった訳でさぁ」
「・・・ほう?バンドしてる姿をこれまで決して見せなかった弟の俺に、わざわざ声かけるってことは、・・まともにご飯を作れるメンバーが少ないってこと?」
「流石わが弟!察しが良くて助かる!!」
だから、開き直んなって・・
「姉貴のバンドメンバーって、姉貴と友達さんともう一人女性、あと男性一人の4人バンドだっけ?」
「おお。ちなみに残りメンバーの男女は、メンバー紹介の時にも言ったが、彼氏彼女の関係だ。そして私のダチは、弟にはもったいない。残念だったな」
「そういうのはいいから。そのカップルさんは、料理全くできないの?」
「女子の方は、・・私とどっこいどっこいだ」
つまりできないってことね。次!
「男子の方は、カレーが作れたぞ!」
「お、カレー!1回作ればしばらく持つ、合宿の定番でいいじゃん!」
「・・ああ、確かにカレーは味も悪くなかったし、1日2日はそれで持って助かったんだがなぁ・・」
「・・歯切れ悪いな。問題点を端的にどうぞ」
「はい。端的に言うと「作るのに半日かかる」のが問題点です。その間、合わせの練習ができません」
なんで真面目口調になった?
「あー・・・まぁ、その間は彼氏さんには悪いけど、個人練習にでもあてれば」
「・・・彼女さんが、手伝おうとするんです。その気持ちは良いけど、料理の成功率が下がっちゃうんです。劇的に。だから、我々残り二人は、それを防ぐのに必死で練習どころではありません」
おおぅ・・・
「・・それでも、彼は数少ない貴重な料理人戦力だったのです。が、昨年末の冬休み合宿で悲劇が起きました。なので、今回は彼にも期待できません」
「一体どんな悲劇が!!?」
「・・詳細は言えません。一言、「もう「カレーくん」って呼ばれるのは嫌だぁ・・・」だそうです」
ぁ、それで大方察しました。十分です。
「つまり、姉貴の言う「料理人戦力」とやらは、実質、友達さん一人だけと」
「さらに言えば、私と彼女さんのマイナス分も加えれば、・・実質ゼロ未満?」
だから、開き直んなって。・・あと、彼女さんって、そんなにひどいんか・・
「・・わかった。姉貴はどうでもいいが、お友達さんの負担がヤバそうだ。俺でよければ、手伝いに行くよ」
「・・初対面の子がかわいいからって、手を出すなよ?修羅場三角関係はごめんだ」
「俺もごめんだよ!」
「・・・あと、あいつと調理場で一緒に料理する機会があると思うが、「手取り腰取り」とかやるなよ?あいつは弟にはやらん!!」
「来て欲しいのか欲しくないのか、どっちなんだよ!?」
「~~♪~~~♪」
ぁ、誤魔化しの口笛がちょっとだけ上手くなってやがる。・・何回もやった結果と考えると、憎たらしいなぁ。
「で、だ。手伝いに行くとした場合の報酬だけど」
姉貴はあからさまにギクッとなって、しどろもどろに答える。
「お、お金はないぞ!私たちは、たった一人ずつの姉弟じゃないか!」
「・・お金は最初から期待してなかったけど、それらしい誠意っぽさを、少しくらいは見せて欲しかったです」
「ぐっ、せ、い、い・・」
「報酬は、たまにでいいから姉貴たちのバンドの練習を見せる事。1日は何もしないでいい俺が遊べる休みをくれる事。この辺でどうだ?」
「ぐっ、弟にバンドをみられる・・・休み・・・」
「賄い人一人雇うと考えれば、破格の条件と思いますけど!?」
半分脅し気味で言うが、実際、そうだろう?
まぁ正直、姉貴たちがバンドしてる様子が見れるってだけでも、俺的にはありがたいんだが。
「ふっ、背に腹は代えられん、か。・・よかろう、そのようにしたまえ」
「・・姉貴、キャラ壊れ過ぎじゃね?」
「言うな・・」
かくして、姉貴たちのいるバンド合宿の、賄い人として1週間同行することが決定いたしました。
そして、あっという間にバンド合宿初日を迎えた。
「あれ?弟くん!?なんで!!?」
「・・こんちわっす。姉貴に賄い人として雇われました」
察したヘッドホンさん― 今日も元気にヘッドホン装着だった ―は、姉貴に食って掛かる。
「ちょっ!聞いてないよ?部長」
「そりゃあ、誰にも言ってないし?サプライズゲストってやつ?」
「サプライズって・・・ もぉ~~」
頬を膨らます友達さん。こういったところ、年上だけど可愛いんよなぁ。
「って、部長?」
「あれ?・・まさか、また言ってない?」
「・・・そういや、言ってなかったかも」
友達さんはため息をつくと、片言で言った。
「弟くん。君のお姉さん。部長」
サプラーーーイズ!!
なんてことをやっている間に、合宿所兼寝泊まりをするロッジって言うのか?に無事到着。ちょうど昼の3時くらいか?
あ、もちろん、今日から1週間共にする残りのバンドメンバー、男女のカップルさんとも挨拶した。
印象としては、まず男の人の方が俺より1個上、大学2年の「真面目なイケメン」。同性の俺から見ても顔が良いので、異性はほっとかないだろうが「いい加減な付き合いはしません」と言った感じ。
彼女さんとのやりとりを端から見ても、「実際そうなんだろうな」と伺える。「ちゃんとした恋愛が出来そう!」と思える、真面目系のファンには特に共感されるんじゃないかな?
そして女の人の方が、明るくて可愛くて、・・・とってもちっこい。こう言っては何だけど、大学2年と言われなければ、中学生かそれ以下と間違えてしまいそう・・ だからというからではないが、やたらと元気なムードメーカーに思えるし、バンド内でも実際そうなんだろう。
ただ、二人とも大学2年で俺より上なのに、「後輩ですから」みたいに振舞うと、「いえいえ、部長の弟さんにそんな!!」という感じに、やたら恐縮されました。・・・姉貴、何か弱みとか握ってたりしないよな・・?
ロッジの部屋割りは、全員個室だった。部屋にいる間はゆっくりできる!ありがたい!!
部屋に各人、いったん荷物を置くと早速、バンドメンバーは演奏機材の準備。俺は調理場で、夕食の準備に取り掛かる。とは言え、去年使った経験のあるヘッドホンさんが、調理場のどこに何があるかを教えるため、最初だけ一緒に来てくれた。それは、普通にありがたいのだけど、
「なんで姉貴も来る?機材の準備はどうした?」
「そりゃあ、我が友を、我が弟の魔の手から防ぐためよ。「準備の前に小腹が空いたんで、ちょっとお姉さんを食べさせてください」とか、さりげなく言ったりしないように」
「言わねぇよ!!・・それより、そんなエロ妄想を姉から聞かされる方が、弟的にはきついんですがね」
「弟くんの気持ち・・お察しいたします」
「二人揃って!!」
冗談は抜きにして、なんか部長らしい姉貴も、調理場のどこに何があるかくらいは知っていて損は無い。3人で調理場を軽く散策しました。こういうのもいいよね。
「さて弟よ。今から1週間、ここがきみの城だ!心置きなく我々のために料理をするが良い!!」
「全部やらせる気満々だな!? まぁ、やるけど、約束通り休みの日は取らせろよ?」
「約束?・・・ハテナ?」
「うん、帰るわ。じゃ」
わりかし本気で、部屋の荷物もまとめに行こうとしてたら、二人に、止められた。
「ジョークジョーク!姉のちょっとしたジョーク!ね?」
「弟くん!料理してくれると本当に助かるし、私もなるべく手伝うから!是非居てください!!」
姉弟特有の「なんだかんだやってくれるだろう」感の入った本気。などとは、比べ物にならない本気を、友達さんから受けた気がする。我ら姉弟、思わず顔を見合わせ、一緒に謝罪する。
「・・ごめんね。この状況だと一番きついのは、あなたってわかってたのに」
「・・すいません。お姉さんが大変なのを、フォローするため来たのに」
「へ・・?」
友達さんが変な声を出して、何故か硬直する。俺、なんか変なこと言った?
「・・という事で、弟はYOU直属の部下?しもべ?にする。何でも言って扱き使うように」
「待て。しもべは待て」
「部長命令」
「俺は部員じゃねえからな!」
などといつもの姉弟やり取りしている内に、友達さんは再起動したようで、
「はいはい。機材準備の二人、きっと一生懸命やってくれてるから、部長もとっとと合流して、練習を始められるようにしましょう」
「一区切りできたら、お手伝いにくるから、弟くんもこっちをよろしくお願いします」
「りょーかい」
「わかりました」
こうして、姉と友達はふたりで本来の目的地に戻る。俺も、やれる事から始めた。
「・・まったく、どっちが部長なんだか」
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