第2話 ヘッドホンをつける訳

「ごちそうさま!美味しかった~。・・食べたばっかりで悪いけど、そろそろ帰るね~。弟くんもありがとうね」


「あ、はい。さようなら」


「気をつけて帰りなよ」


「うん。じゃあ、二人とも、またね~」


また気まずくなるのを恐れるかのように、ヘッドホンのお姉さんは帰っていった。



「・・・姉貴、あの人のしてるヘッドホンって、」


「ああ。・・私の知る限り、大事な意味がある」


「それって、」


俺は、意を決して言った。



「恋人とかの、形見、みたいな?」


「あ、そういうんじゃないから」


「違うんかい!!」



いや、一番辛そうな予想をあえて言ったから、違うのはいいんだけどさぁ・・・かすってもいないのは、個人的にくるのよね・・


「うん?・・いや、あながち違ってもいない、のか?」


「どっちだよ!?」


かすって無いと言われて、すぐにまた「かすってるかも」とか言われるのって、なんかもやもやしません?


「ん~。あいつが一番好きな曲を始めて聴いて、そして、一番最後に聴いたのも、あのヘッドホンだった、らしい・・」


うん、どうゆうことだ?


「えっと、始めてはともかく「最後」っていう事は、ライブとかで生で聴いたのが最後ってこと?・・ひょっとして、その好きな曲を歌うアーティストの方が、そのライブを最後に・・亡くなったとか?」


「・・私の聞いた限りのことを話すぞ」


珍しく神妙に、姉貴は言う。


「結論から言うと、あいつの好きな曲を歌うアーティストは亡くなったりはしていない・・と思われる。どうやら突然に、「しばらくの間、作詞・作曲活動を休止します」みたいな発表が、ライブ配信であったらしい。それ以後、亡くなったと言った情報は流れていないそうだ」


「・・へぇ~~」


なんか、どこかで聞いたような話だな?アニメとかでか?


「だが、悪い情報はないものの、「活動再開をいつにする」といった良い情報もない。・・だからあいつは、いつ突然再開しても、あのヘッドホンで聴けるように、授業や寝る時以外は、極力つけるようにしているそうだ」


「え!?姉貴、あの人のヘッドホン外した姿、見たことあるの!!?」


「・・当たり前だろう。あいつは、ヘッドホンと一体になった生物とかではないんだぞ」


言われればそうだけど、初対面から「ヘッドホンのお姉さん」だったから、そのイメージしかどうしても沸かないんだよね。


「ん~、事情はなんとなく分かったけど、プロの方なら、なんだかんだ情報出てくるものじゃない?思い切って、所属事務所に問い合わせても・・・あー、「お答えできません」って返ってくるだけか」


「それは私も言った。でも「プロじゃないし、所属事務所とかもない」らしく、挙句、その人のSNSとかも、閉鎖されているそうだ」


・・それはそれは。


「・・なんか徹底してるなぁ。じゃあもう、曲名やアーティスト名から当たるしかないじゃん。何て名前なの?」


「・・それはしらない」


うん?


「「それはしらない」?曲名?まさか、アーティスト名?」


「あー、確かになんか曲名でありそうだけど、今回は言葉通り。私はその辺知らないんだ」


「だってあの子、どんなに聞いても、絶対に教えようとしないからさ」


「え?なんでまた・・?」


「「ヘッドホンをつけている理由」として、ここまでは答える。けれど、そこから先は、自分で探したいし、待ちたいんだと」


「そう言われたら、無理やり聞き出すなんて、できないじゃんか」


あー、まぁ、そうだけど、


「待って?なんで俺に、そんな情報伝えたの?」


「あんたから聞いてきたんでしょ?・・それと、今後、ヘッドホンについてあの子に聞かないため?」


それって、つまり・・


「一緒に、あの子の逆鱗に触れないようにしていこうな! マイブラザー!!」


片棒かつがされた―――!!



「はぁ。・・・まぁ、あの人のヘッドホンについては、触れないよう注意するよ。早く解決して欲しい・・・あ、ちなみに、活動休止したのって、どのくらい前とかは聞いてる?」


「確か・・・2年前くらいとか言ってたかな?」


「・・・しばらくって言ってるわりに、結構長くね?」


「そうなんだよ。こうなると最悪、もう戻ってこない可能性もある。そうなりそうな時は、」


「時は?」


嫌な予感がした。それはまるで、最下位になると全額奢らないといけない、かのTV番組のような緊迫感。


そして肩をポンと叩かれ、言われた。


「あんたが説得しようか。弟よ」


悪い予感的中―――!!!


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