姉の友達はヘッドホンを外さない
Syu.n.
第1話 姉の友達な訳
「あ、弟くん?こんにちは~、お邪魔してま~す」
「あ、ども、こんにちは」
二つ上で女子大生をしている姉と、一緒に生活しているアパートの一室に帰ってくると、姉の友達で同級生の女の人がいた。自分が会う限りではあるけど、常にヘッドホンをつけている人だ。
「おう、弟。帰ったか。晩飯頼む」
そして同居人である姉は、学業で疲れて帰ってきた弟に、いたわりのカケラもない言葉を投げつける。
「姉貴~~。友達が来てる時くらい、晩飯自分で作れよ」
「ほう?反抗的だな?別に作ってやってもいいぞ?」
「・・どうせインスタントだろ?」
「当たり前だが?」
女子力ゼロの発言を堂々と返す姉に、俺は頭を抱える。
「・・・相変わらず、仲がいいねぇ~~」
「違いますよ?」
「どこをどう見たら、そうなるんだ?」
俺と姉のちゃんとした反論を聞いてなお、姉の友達さんはコロコロと笑って、のんびりした声で言った。
「やっぱり、仲、いいよぉ~~」
「ほう、今日の晩飯は「野菜炒め」が主か。・・もう少しレパートリー増やさないと、モテないぞ、今時」
「姉貴にだけは言われたくねぇ・・・」
「まあまあ」
疲れている俺の体力と、仕送りに頼る学生姉弟二人の家計事情。そして、つい先日実家から送られた如何にも「栄養に気を使いなさい」的な野菜と、冷蔵庫内にあった賞味期限の近い肉というコンボ。
この状況で、さして料理を勉強した訳でない男子学生が「野菜炒め」を作ったとして、文句を言われる筋合いはないだろう。
「・・まぁ、ご飯は炊いてくれてたのは、だいぶ助かったけど」
「あ、それ、わたし」
友達さんが、ニコニコと自分を指さしながら言う。
「・・あ~ね~き~??」
「♪~~♪~~」
そっぽ向いて、さして吹けやしない口笛で誤魔化そうとしてんじゃねぇ!
3人で夕ご飯の置かれたテーブルを囲み、「いただきます!」をする。こんな風に友達さんも一緒に食事をしたのは、これで4回目かな?
・・ちなみに、今回も含め4回とも、俺が作りましたとも。
「ごめんね~。姉弟水入らずにお邪魔しちゃって」
「気にしない!こっちこそ悪いね。いつもこんな適当な料理で」
「悪かったな、レパートリー少なくて。たまには姉貴が振舞ってくれていいんだぞ?」
「私が振舞えるものが、そう簡単にできる訳ないだろう!!?」
「開き直んなって言ってるんだよ!!」
一触即発!
「どうどうど~~。弟くんのご飯、美味しいよ?あと、兄妹喧嘩は、ご飯中にやるのはマナー違反~。食べ終わってから、仲良くやってください」
言葉は丁寧だが、どこか有無を言わせない圧力に、俺たち姉弟は屈する。
「・・すまない」
「・・・失礼しました」
「うんうん。わかればよろしい~さぁ、食べよー」
何事もないかのようなニコニコ顔の友達さんに、俺はとてもかなう気はしなかった。
「・・まったく、なんでこんなできた人が、姉貴の友達なんかやってるんです?」
「・・・あまり言うと、姉も傷つくぞ?」
自業自得な人物のぼやきなど、聞く耳持たず。
「あれ?弟くん、聞いてないの?私たちが学生バンド組んでること」
「ぁ、ばか・・」
「・・・初耳っす」
ジト目で姉の方を見る。再び、誤魔化しの口笛擬き。
「・・・こんな口笛もまともにできない姉がですか?」
「う~ん、それは否定できないけど、ドラムの実力はかなりのものだよ?」
「そこは否定して欲しかった・・」
隣でなんかどんよりしている肉親は、放置の一手で。
「姉貴がドラム・・ぁ~、なんか、らしいなぁ。お姉さんの担当は何なんですか?」
「私は一応、ギターでボーカル。・・まだまだそんな上手くないけど」
「へー。だから、いつもヘッドホンをして、何か聴いてるんですね?」
「あ、うん。・・・それだけじゃないんだけど・・・」
微妙な返事と沈黙。・・・あれ、俺、やっちゃった・・・?
「・・・おい、弟よ。ちょっと調子乗り過ぎだぞ?」
「・・ごめん」
素直に謝る。
「・・お姉さんも、何か変なことを聞いちゃったみたいで、すみませんでした」
「・・ううん。弟くんは悪くないから、気にしないで。ほら、せっかく作ったんだから、全部食べちゃお!」
それから俺と姉とその友達は、差し障りのない話で、楽しく過ごした。
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