第4話 悪魔達の事情
ペンダントの事情も分かり、私とオカ研との接点も消滅。あの怪しい校舎に行く事もなくなった。いや、行ってもいいんだけど、行く理由がなくなったんだよね。別に先輩が怖いだとか苦手だとか、そう言うのではないんだけど。
見えるようになった悪魔の方だけど、相変わらずのレアキャラだ。会えない日もあるし、多く出会えても最高で1日2匹くらい。しかもあの悪魔、私が見ている事に気付いたらすぐに逃げちゃう。何なの、一体。
「まるで野良猫みたいだな」
思わず発したその一言に、自分でも笑ってしまう。そう、私は野良猫にも好かれていないのだ。猫自体は好きなのに、目が合うとすぐに逃げられてしまう。敵意オーラなんて出していないのに。むしろ大好きオーラしか出していないのに。
ちなみに、餌で釣るのは邪道なので野良猫相手に餌を渡した事はない。構ってもらいたいがために餌を用意したら、もう終わりだと思っている。そこまで落ちたくはないな。
「あ!」
さっきまた悪魔に逃げられて、私は唐突に気が付いた。悪魔が私に気付いて逃げたと言う事は、悪魔からも私が見えているんだ。そして、逃げたと言う事は見られたらマズいと思っているって事……なのかなぁ。
それとも、人間を恐れている? まさかね。
翌日の放課後、私はまたオカ研の部室に来ていた。室内を覗くと、先輩はそれ関係の本を読んでいる。私がノーノックで部室に入ると、気付いた彼はむちゃくちゃ驚いて椅子から転げ落ちた。
そのコントみたいなリアクションに、思わず私は笑ってしまう。
「岡田さん? ななな、何か用?」
「うん、聞きたい事があって。てか大丈夫?」
先輩は椅子に座り直すと、別に大丈夫ですけど? みたいなリアクションをした。強がりバレバレだけど、本人が心配してもらいたくない風なのでその意志を尊重する。
私は彼の隣の席に座って、今回部室に来た理由を口にした。
「先輩は悪魔に詳しいですか?」
「まぁ、普通の人よりは」
「悪魔が人を恐れるって事、あると思います?」
「どう言う事?」
先輩が興味を持ってくれたので、私は昨日気付いた事を説明する。つまり、悪魔は人間が怖いから目が合うと逃げているのではないかと言う仮説だ。
私の話をじっくりと聞いた彼は、腕組みをして若干視線を落とす。
「悪魔は人を誘惑して堕落させると考えられていたんだよね。それに対抗するために悪魔を祓う人達も現れ始めた。もしかしたら、その時の体験が引き継がれて恐れているのかも知れない。逃げていたのは子供の姿の悪魔なんだろう? きっと力も弱いんじゃないかな」
「流石は先輩。謎は解けました」
一瞬で納得させてくれた先輩に、私は尊敬の眼差しを飛ばした。すると、彼は顎に手を当てながら私の顔を見る。
「謎と言えば、岡田さんに見えている悪魔は何故この世界に来ているんだろう?」
「そんなの知りませんよ」
「だよね。あはは……」
こうして用事も終わったものの、すぐに帰るのもつまらなく感じた私はしばらく先輩と雑談を楽しんだ。普段のオカ研の活動の話とか、いつも放課後でどんな事をしているのかだとか、こう言う風に部外者が部室に来る事はあるのかとか――。あれ? 結構話題偏ってる?
「この部室に他の生徒が来たのは岡田さんが初めてだよ」
「そ、そうなんだ。ふーん」
彼は愛読書のオカルト雑誌に目を通しながら、平時のトーンで私の質問に答えていく。何となく微妙な雰囲気になって、気恥ずかしくなった私は部室を後にした。
「ま、また何かあったら来るね」
「うん。いつでも大歓迎だよ」
彼は雑誌から目を離して、私の顔をまっすぐに見つめる。逆に、私は目を合わせられずに焦ってその場を離れた。そのまま学校を出て、いつもと違うルートを選んで歩き始める。
それは、気分転換をする時のルーティーン。
「こう言う時に悪魔が出てきたら面白いのにな」
気が付けば、私は悪魔を積極的に探していた。それがオカ研に行く口実を欲しているからだと確信したのは、何も見つからずに家に着いて落胆したその時だった。
「やっぱ、何もないのに部室には行けんよね……」
翌日の放課後も私は悪魔を探す。今度はよく悪魔を見かけた、いつもの帰宅ルートを辿った。キョロキョロと真剣に周囲を見回していると、背後から聞き慣れない声が飛んでくる。
「お前、何やってんだ?」
「ひゃあ!」
驚いて振り返ると、そこにはずっと探していた悪魔が立っていた。見た目は見慣れたいつもの悪魔と何も変わらない。今まですぐに逃げられていたから、正面から向き合ってくれたのは驚きを通り越して感動モノだった。
「喋るんだ……」
「当たり前だろ。俺達が見えるヤツがいるって聞いたから会いに来たんだぜ」
「あ、どうも」
「思ったより間抜けだな。ちょっとガッカリだぜ」
初めて言葉をかわした悪魔は、少し生意気なキッズだった。悪魔だからそう言う口調なのだろう。とは言え、悪意も全く感じられなかったので私は少し安堵する。
「君達は何で人間界に?」
「観光だよ。魔界とは全然違うからな。色々見て回るだけでも面白いぜ」
「でも私、1日に1匹見るくらいだよ。観光ならもっと多く目にしてもおかしくないのに」
「匹とか言うな。数が少ないのは普段は来ちゃいけないからだ。これでも結構なリスクなんだぜ」
彼の話によると、悪魔は人間界には来てはいけない決まりになっているらしい。決まりを破ってこちらの世界に来るのは犯罪行為であり、バレたら捕まってしまうのだとか。
ただ、そんなリスクを犯してでも来たいほどに人間界は魅力的らしい。
「人間にちょっかいかけたりとかはしないんだ?」
「いつの時代の話だよ。今はもうそう言うのはやらないぜ」
「悪さしないならいつでも来れたらいいのにね。どうせ普通の人には見えないんだし」
私が同情すると、彼は不意に虚空を見つめる。
「ハロウィンの日、あの日だけは人間界への行き来が解禁される。普通の悪魔はその時にこっちに来るんだ」
「じゃあその日に来ればいいじゃん」
「バッカお前、ものすごい数なんだぞ。自由なんてありゃしない。ただ決められたルートを飛んで強制的に終わるんだ。そんなの面白い訳がないだろ」
確かに、気ままな一人旅と旅行会社が企画したツアーは自由度が全然違う。一人旅が好きな人がいるように、普段見かける悪魔達は決まりより自由を求める奴らなんだ。そう考えると、悪魔達にも親近感が湧いてくる。
「今日の旅は楽しい?」
「ああ、この世界は最高だぜ!」
悪魔は満面の笑みを私に向け、すぐに飛び去っていった。私は彼が見えなくなるまで見送り、それまでの会話内容を反芻する。
「そっか、ハロウィンにはすごい数の悪魔が見られるんだ……」
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