第5話 決着
大鎌が拳銃を切り落とした。
しかし拳銃は再生し弾丸を放つ。
するとどうだ。
大鎌に穴が開く。
しかし、それもすぐに再生していく。
「詠唱棄却」
「詠唱棄却」
虚空を削り取る一撃と黄金の塊が互いを喰らい合う。
その超常を目の前に、二人の男は微動だにしなかった。
連続する権能の使用、互いの力がぶつかり合い、相殺される。
ゲージがじわじわと減っていく。
そうただ相殺しているわけでも。
ただ武器を壊し合っているわけではない。
少しずつダメージが累積している。
それは同時に減っていた。
貪欲と黄金は獰猛に笑う。
男達は表情に汗を浮かべながらその様子を見つめている。
(まだ使っているのは五割……残り五割だ)
全てを出し切ってはいない。
しかし、それは出し渋ったわけではない。
一気に放出するのではなく、徐々に支払う。
それが獅子野が立てた作戦だった。
それが再生する大鎌の秘密。
そう再生する度に課金されていく。
しかし相手の銃を見るに。
(まさか相手も同じ作戦で来るなんて)
予想出来なかった。
自分に思いつくような事が相手にも出来るなんて考えもしなかった。
それは獅子野の詰めの甘さであり、今回の勝負のキーポイントだった。
(銃のが大鎌より課金コストは重いはず……じゃあどうして再生する……考えろ考えろ)
無い頭を絞り出す。
数少ないローレッタとの思い出が走馬灯のように巡る。
優しい貪欲の魔女。
優しい?
そう、彼女は優しかった。
だから、とあるシステムについて話さなかった。
それは。
「……俺は借金して大鎌に変形機構を追加する!」
「シシノ!?」
「絶対勝て! ローレッタ!」
「――うん!」
そうこの課金システムに上限額はない。
自分の預貯金以上の課金も可能なのだ。
十二割の力。
大鎌がさらに巨大化する。銃とのリーチ差は埋まる。
銃の方はもう既に十二割の力を出していたのだ。
拳銃のリーチと再生力。
それが種明かしだった。
「リーン!!」
「分かってる……詠唱棄却、対価『拳銃』使用、『
「やろう、ローレッタ」
「ええ、詠唱棄却、対価『変形大鎌』使用、『
空が割れる。
巨大な金塊が地面に向かって無数に降り注ぐ。まるで絨毯爆撃だ。
大地が削れる。
巨大な空間の歪みがその顎を天に向ける。
これでは前回の二の舞だ。
だけど。
だけど。
だけど。
獅子野はそこでさらに課金した。
「これで、二十割――!」
権能を使用して互いに無手となった状態で。
ローレッタの右手に拳銃が握られる。
乾いた破裂音が鳴り響く。
同時にリーンの額に血の花が咲く。
それと同時に金塊と大顎がぶつかり合い、消え去った。
地面に倒れ伏すリーンと。
銃を構えたまま立つローレッタ。
勝敗はついた。
オオツキが黒く解れて消えていく。
彼は最後に。
「テメェの顔、ゼッテェ忘れねェ」
そう言い残して消え去った。
「……終わった、のか?」
「ええ、でもやり過ぎよ、借金二十割なんて」
「どうなるんだ……?」
そこにローブの人物が近づいて来る。
「優勝した今の時点で貴方様の借金は帳消しになりますのでご安心を、そして貴方様には選ぶ権利が与えられます」
莫大な富か。
一つの願い。
獅子野の答えは決まっていた。
「ローレッタを開放して欲しい」
「は――!?」
「開放、というと?」
「この魔女同士の戦いから、彼女を解き放って欲しいんだ」
「なるほど? それは貴方の利益になりますか?」
「なるさ」
フードの中の口元がちらりと見えた。
それは微笑んでいた。
「いいでしょう、ローレッタ、あなたはこれからはこの世界の人間として生きていきなさい。もう戦う必要はありません。これにて契約は履行されました。ウィッチ・ウォーへのご参加、ありがとうございました。それでは、よい旅路を」
フードの男が消えて、景色が回り、家に戻って来る。
「ローレッタ?」
「なによ」
「もしかして、怒ってる?」
「別に!」
赤髪の少女はこちらを睨みながら。
「私、こっちに身よりなんて無いんだけど!」
「……あー……俺がなんとかするよ」
「責任、取ってもらうんだからね」
「あはは……お手柔らかに」
こうして一組の男女、魔女の戦争。とあるゲームの何回目かの終幕が訪れた。
次のゲームは貴方の下に行くかもしれません。
その時はご贔屓に。
完
召喚系アプリケーション(仮) 亜未田久志 @abky-6102
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