第3話 アルバイトと黄金の魔女


 ゲームに課金するにはお金が必要だ。

 割合で引かれるからと言って油断してはいけない。

 十割引かれないからと言って。

 二割の中身が一万円と百万円じゃ大違いなのだ。

 なので副業を始めた。

 会社勤めの獅子野だったが、土日にコンビニアルバイトを始めた。

 微々たるものだが、無いよりマシだと思う事にした。

「いらっしゃいませー」

 接客業は好きじゃなかったが仕方ない。

 時給の良い夜勤を選び。

 働いていた。

 そこに一人の男が現れる。

 黒髪のオールバック。

 スーツルックのその男は商品も持たずにレジ前に立った。

「……お客様?」

「お前、『魔女持ち』だろ、出せよ」

「ッ!」

 店内から客が消える。

 あの時と同じだ。

 ここはバトルフィールドへと変わったのだ。

 スマホを起動してローレッタを呼び出す。

 現出する赤髪の魔女。

 対するは金髪の魔女。

 銀色の瞳がこちらを無感情に見つめてくる。

「リーン、最初から大技で行くぞ」

「了解」

「ローレッタ……」

「……八割、寄越しなさい」

 フィクションの死神が持っているような大鎌を召喚する獅子野。

 対するオールバックは。

「銃!?」

「チッ! リーチの差で攻めて来たか!」

 連続する射撃。

 それをステップだけでかわしてローレッタは踏み込む。

 首を刈り取る一撃。それも届かない。

「シシノ! 相手は多分、十割課金してる! これ以上の追加武装は無い! だから――」

「わ、わかった」

 銃に対抗するために鎧を残りの二割で召喚する。

 これで互いに十割。

 鎧で弾丸を弾きながら接近するローレッタはリーンの首を的確に狙う。

「オオツキ」

「わーったよ」

「対価「銃」使用、太祖より出でり黄金の御身、煌めくは鉄塊、落とせ重圧」

 巨大な黄金がコンビニエンスストアへ向けて降って来る。

 それは終末の隕石じみていて。

「ダメ、避けられない。シシノ!」

「くっ!」

 魂を変換のボタンがスマホに表示される。

 それを躊躇しながら押す。

「対価「死神の大鎌」を使用、太祖より出でり、貪欲の御身、喰らうは天の鉄塊!」

 

 ――相殺――


 隕石と大顎がかち合い対消滅した。

 そこで互いの手札が切れた。

「……リーン、返還手続きを」

「返って来るのは五割程度」

「ローレッタ?」

「今回は引き分けみたいね、シシノ、返還手続きに画面を進めなさい、何割かお金が返ってくるわ」

 言われた通りに画面の指示に従って操作をする。

『返還手続きありがとうございました。入金されたうちの三割を返還致します』

 するとオオツキと呼ばれていた男と黄金の魔女リーンはもういなくなっていて元の店内に戻っていた。客が店内に戻っている。

「……こんなのが後、何回続くんだ」

 獅子野は一人ごちる。

 金と魂と命を賭けた戦い。

 彼はただ自らの命のために戦っていた。

 それ以外は考えられなかった。

 思い出される最初の対戦相手。

 黒く解れて消えて行く体。

 今、思い出しても背筋が凍る。

 あれを成したのが自分という事がなにより恐ろしい。

 スマホを覗く。

 ローレッタが背伸びをしている。

「なんていうか……」

 とてものん気だな、と思った。

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