第2話 説明回(仮)



 まるで現実感が無い。

 家に帰って来てもそれは戻って来ない。

 あるのはスマホの中にいる魔女だけだ。

「さて、家についたわね、ココをセーフポイントに設定するわ」

「はぁ……」

 専門用語の意味が分からない、というかスマホから現実に干渉するコレはなんだ?

 青い光の幕に包まれるアパートの一室。

「これで闇討ちの心配は無くなったわ」

「あのう、それも僕のお金使ってやってるんですか?」

「ん? ああ、固有権能や共通権能の行使はタダで行えるわ。課金要素は『対価』の召喚だけ」

 対価、あの大鎌の事か、それとも。

 黒く解れて消えた男の事を思い出す。

 その直前に現れた『魂の変換』一体、誰の魂が何に変換されたというのか。

 考えるだけで怖気が走る。

 魂なんて不確定なものを削り取られた事実は。

 貯金が勝手に引き落とされた事実より恐ろしかった。

「なに青い顔しちゃって」

「俺、何に巻き込まれたんですか」

「あーそうね、いざ説明の段となるとめんどくさいな……まあいいわ一から十まで教えてあげる。このデスゲームは各世界で行われて来たわ」

 各世界、その言葉に引っかかりを覚える。

 どうにも国単位の話をしているとは思えなかった。

 しかし話を遮るのが嫌で獅子野は黙っていた。

「あー課金システムの説明からした方がいいかしら、不親切だものね、課金は額じゃなくて貯金から割合で引かれていくわ。今回の大鎌で二割ってとこかしら」

 もう二割、残り八割。そこでローレッタが人差し指を立てる。

「だけど安心なさい、今回、相手プレイヤーを倒した報酬が入っているわ」

「報酬?」

「口座を確認してみなさいな、もう振り込まれているはずよ」

 スマホをいじって(魔女が邪魔だった)電子通帳を開く。

 すると、そこには。

「いちじゅうひゃくせん……!?」

「相当、手練れだったみたいね、ま、私にかかれば雑魚だけど」

 一千万円以上の入金、自分がとてつもなく恐ろしいものに巻き込まれたのではないかと恐怖する。

「シシノってば聞いてる?」

「は、はい」

 ローレッタは話を続ける。

「私のゲージがゼロになったら負け、相手のゲージをゼロにしたら勝ち、どうシンプルでしょ?」

「あの、そもそもあなたは、あなたたちはなんなんですか?!」

 獅子野はスマホに向かい叫ぶ。それは慟哭に近かった。

「そうね、異世界人って言ったら信じる?」

「……いせかい」

 獅子野はラノベでしか聞かないような言葉に頭が痛くなる。

 という事は先ほどの『各世界』というのはやはり――

「私達は並行世界を旅する異邦人ストレンジャー、このゲームの主催者もそう」

「主催者?」

「最初は古い都市の闘技場コロシアムだった。それからドンドン世界が変わるごとに形態が変わっていった。そして今に至るわ。そうアプリケーションという最も流布された形にね」

 それはおそらく、その方が効率的だから。

 効率的にお金と魂を集めているのだ。

 獅子野は納得はしないが理解はした。

 その上で再び問う。

「俺はこれからどうすれば」

「生き残りなさい、最後の一人になるまで」

 この世界が理不尽で出来ているのは知っていた。

 昔からいじめにあい、今でも会社での立場はいいものではない。

 だけど、これはもはや不条理だ。

 獅子野は今すぐこんなスマホを投げ捨てて布団に潜り込みたくなった。

 しかしローレッタの、魔女の瞳が訴えてくる。

『無駄だぞ』

 と。

 もう逃げられない。

 彼はこの魔女を使役して戦うデスゲームに参加する事になるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る