〈口腔ケアのすゝめ〉

「食べてすぐ寝ると牛になるヨ!」と、幼いころ躾(しつけ)に使われた言葉が今や高齢者の肺炎予防に。

 ……と言っても(新型コロナウイルス感染症ではなく)誤嚥性肺炎のことである。


 さまざまな原因で〈細菌〉は肺へ侵入する。

 なかでも高齢者が肺炎を繰返す場合には、次のうち(2)の不顕性誤嚥タイプが多い。


(1)食物摂取時の誤嚥

  誤嚥性肺炎こそは老衰の兆しなるゆゑ心して食まむ(医師脳)


(2)口腔内唾液の気管内流入

  噎(む)せもせず咳も出ぬまま密(ひそ)やかに誤嚥かさねて肺炎となりき


(3)胃内容物の逆流

  「食べてすぐ寝ると牛になる」といふは老いの肺炎予防によろし


 不顕性誤嚥が証明されたのは1994年のことである。

 ――高齢者の2群に放射性同位元素(RI)ペーストを歯肉へ付着させ、翌朝に溶けたRIの分布を調べる。

〈肺炎を繰り返す群〉では70%の人に肺への取り込みが確認されたが、

〈肺炎にならない群〉では10%しか見られない。

 この研究から、口腔内細菌の不顕性誤嚥が肺炎の原因である可能性が示され、口腔ケアの予防効果が注目され始めた。


 しかし問題は〈口腔ケアの質〉である。

 歯科医や歯科衛生士が〈専門的口腔ケアを追加した群〉では、5か月後の口腔内細菌数が当初の1割まで減少した。

 だが〈追加しない群〉では減少していない。

 2年間の追跡調査では〈専門的口腔ケア群〉の発熱者数・肺炎発症者数・肺炎死亡者数ともに半減していた。


 きちんとした口腔ケアを行えば、歯周病のみならず全身疾患(狭心症や心筋梗塞・脳梗塞・糖尿病・誤嚥性肺炎など)の予防にもつながる。

〈認知症予防〉というオマケが付くとも聞く。


 コロナ禍の折〈うがい・手洗い〉に〈口腔ケア〉もお勧めしたい。

  三月(みつき)ごとのデンタルケアを済ませれば足取り軽く春風のなか

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