〈命の関守石〉
広辞苑によると、関守石(せきもりいし)とは「茶庭の岐路に蕨縄(わらびなわ)で十文字に結わえて据えた石。それから先へ行くな、という意」とある。
この関守石は、止め石、留め石、関石(せきいし)、極石(きめいし)、踏止石(ふみとめいし)とも呼ばれるそうだ。
医者になって間もなく半世紀になろう。
はじめの3分の2は産科医として飛びまわり、そのあとは老人医療に今も携わっている。
「揺り籠から墓場まで」を実践する人生行路であった、と振りかえれば……。
取り上げも看取りも遣りし爺医なれば「命の関守石」とも言ふべし(医師脳)
〈慶〉が減り〈弔〉の増えたる慶弔欄 「絶滅危惧種」にならむかヒトも
産科医だった頃は〈出生証明書〉を随分と書いたが、どれくらいの数だったかは覚えていない。
「おめでとう」と「ありがとう」の遣り取りは、分娩室での緊張を癒すものとして記憶にある。産科医をしてよかった、と晴れがましくも思ったものだ。
長男の四十八歳の誕生日けふ。若き産科医たりし日々よみがへる
一方の〈死亡診断書〉は、老健で看取りを頼まれるようになり書く機会がふえた。そのほとんどは「老衰死」の診断である。
「おかげで天寿を全うさせることができました」という遺族の言葉に、正直なところ肩の荷がおりる。
朝刊に後輩医師の訃報載る。心沈みて朝陽のまぶし
近頃は新聞下段の黒枠のお悔やみ欄に「医師会」ならぶ
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