2#36 コーラ買ってこいよ



先日、俺の部屋へと集まった7人の女の子達。


緑ちゃんの話によれば、あの時に集まった全員が俺に対して催眠アプリを使ったという話だ。


となると、そこには当然カズも含まれてくる。


カズの事だ催眠アプリなんぞを手に入れたら、そりゃ面白がって俺に使ってくるだろうな、なんてある意味での信頼に近い確信があった。


まぁカズだし。俺の事を椅子にしたり、頭を踏んだり、足舐めさせたり、無意味に自分をヨイショするように強要したりとか、そんな所だろう。


この時の俺はまだ、わりと気楽に考えていた。




◇◇◇




放課後になり、俺は一旦帰宅してから私服に着替えてカズとの待ち合わせ場所に向かった。


待ち合わせ場所は駅前にある広場だ。約束の時間は特に決めてない。着いた方が連絡して何となくで合流する。だいたいは俺が先に来てカズを待つ形になるのはいつもの事。俺は着いた旨をカズにメッセージを入れるが既読になるだけで特に返信は無い。見てるならそれでよし。ベンチに座り暇を潰す。


しばらくスマホを弄りながら待っているとTシャツにハーフパンツとラフなカッコの色気の欠片も無いカズが現われた。



「サツキー来たよー」


「おー」



なんとも緩い感じで声を交わしつつ、視線はカズの着ているTシャツに向かう。なんとなくカズが着ているTシャツには見覚えがあった。前にも着ている所を見たことがある柄だったか……いや違う。


俺が今来てるTシャツの柄とまったく一緒だった。道理で見た事がある柄なわけだ。



「おいカズ……そのTシャツ……」


「ん?これがなんかした……って!ちょっと!サツキの着てんのと一緒じゃん!?」


「よしカズ!おそろは恥ずかしいから脱いでくれ!」


「はぁあ!?なんで僕が脱がなきゃなんないんだよ!脱ぐならサツキが脱げよ!」


「なんで、こんなところで脱がなきゃなんないんだ!露出狂か!」


「ブーメラン!」



なんでこんなドンピシャで着てくるものが被るかなぁ……というかなんでそもそも同じ物を買ってるのか……こんなんペアルックじゃんね。


まぁ、ペアルックで並んで歩いてもカズとなら仲のいい兄弟ぐらいにしか見られんだろうし、別にいいか。



「サツキとペアルックとかはっずぅ」


「それはこっちのセリフな?」



言いながらカズは自然に俺の隣に腰掛けた。



「それにしても、今日、あっついんだけど……」



ベンチに腰掛けるや否や。カズはダラりと身体から力を抜いて空を仰ぐ。確かに今日は気温が高く、夏だなぁなんて実感がわく気候だった。



「サツキー、ジュース買ってきてー」


「は?そんなん自分で買ってこい」


「は?サツキは今日は僕の奴隷で財布だよね?拒否権あると思ってるの?」


「うぐっ……そういやそうだったわ……」



あまりにも普段通りで忘れかけてたが、今日の俺はカズの財布だった。不承不承ながら俺はベンチから立ち上がる。



「ブラックコーヒーでいい?」


「そんな泥水飲めないんだけど?」


「泥水言うな。クソ甘いカフェオレでいい?」


「このクソ暑い中、甘ったるいの飲みたくないんだけど?」


「よしなら水だな」


「なんでわざわざお金出して水なんか飲まなきゃなんなんないの?バカでしょ?」


「失礼極まりないな。なら飲み物いらないな」


「コーラ!」


「はいはい」



近くにあった自販機に向かう。そこで俺はカズ様ご所望のコーラを買って戻ってくる。



「はいコーラ」



言いながらカズにコーラを渡す。



「なんでゼロコーラなんだよ!こんな不味いの飲めないよ!普通の奴がいいんだけど!」


「あんまカロリー高いのばっか飲んでると糖尿になるぞ」


「この僕が糖尿になんかなるわけないじゃん!普通の!普通の買い直してきて!」


「はい普通のコーラ」


「あるなら最初からそっち渡してよ!まったく……ってかこれコカじゃん!しかも細くて量少ないヤツ!ペプシ!ペプシの方がいい!」


「ここらでペプシのコーラ売ってる自販機ないぞ?コカで我慢しろって」


「やーだー!ペプシ!ペプシの大っきい奴がいい!」


「カズさぁ。毎回大っきいペプシの奴買うけど、毎度毎度飲みきれなくて残すだろ。それで俺が結局飲むだろ。おまえにはコカの細い缶で充分だって」


「ヤダよ!こんな貧弱な奴!」


「貧弱貧相代表のおまえにピッタリじゃん」


「はぁあ?キレそうなんだけど?僕が貧弱?貧相?もうペプシの大っきいの買ってくれるまで許さないからね!」


「それじゃ一緒にペプシ売ってる自販機探しに行くぞ」


「わかった」



そうして俺たち2人はペプシのおっきい奴を求めて駅前を彷徨い始めた。



「疲れた。ペプシもういい。そのコカ頂戴」



自販機を2.3ヶ所回ったところでカズはすぐさま根を上げてダレた。知ってた。


先程買ったコカの細い缶の奴を渡すと、カズはその場でそれを開けて飲み始める。



「なんか微妙……キンキンに冷えてない」


「そりゃ買ってからちょっと時間たったしな」


「もういらない。サツキ残り飲んでよ」



封を開けて1口飲んだだけのコーラが俺の元へと返ってくる。知ってた。俺は早々にそれを飲み干す。



「おうサツキぃ!僕が1回口付けたコーラは美味しいかぁ?」


「別に普通だけど?」


「この僕との間接キスだよ?嬉しいでしょ?」


「なにをわけのわからんことを……いつもの事だろうに」


「とかいいつつ内心は興奮してるでしょ?キッショ」


「急に間接キスどうこう言い始めたおまえの方がキモいんだが」


「なんだよ!僕がキモいってどういう事だよ!クソキモ雑魚ウジ虫に言われたくないんだけど!」


「はいはい。そうだなー。それより肉はいいのか?ダラダラしてて、そこそこいい時間になったぞ」


「そうだよ!肉!今日はサツキの金で肉食うの!僕お腹すいてるんだよ!いっぱい食ってやろうって朝から何も食べてないんだよ!」


「それじゃ行くぞ。どこ行きたいんだ?」


「わかんない」


「わかんないって……まさかおまえ肉って言っただけで、なんも考えてないな?」


「とりあえず肉。美味しいの食べれるとこ連れてって」


「はぁ……わかったよ。焼肉でいいのか?それともステーキとかか?」


「しゃぶしゃぶ食べたい」


「しゃぶしゃぶかよ」



しゃぶしゃぶかよ。


あぁ、でもしゃぶしゃぶなら食べ放題が近くにあった気がする。俺はスマホで近場の飲食店を調べ始めた。


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