2#37 残飯処理班
「しゃぶしゃぶ!しゃぶしゃぶ!」
他人の金でタダ肉が食えるということでご機嫌のカズさんと共に食べ放題のしゃぶしゃぶ店に入る。
週末の夕暮れで混んでるかとも思ったが、タイミングがよかったようで、それほど待たずに個室に通された。個室は和室になっていて畳にテーブル、テーブルの真ん中にコンロがついていてそこに鍋を乗せる様だ。靴を脱いでそこに上がり込む。
向かい合うようにテーブルにつき。早速とばかりにカズはメニューを開いた。
「ちょっとお!ここ食べ放題じゃん!」
そして開口一番これである。
「お気に召さない?」
「お気に召さない!単品の高い肉が食べたいんだけど!これじゃサツキの財布にダメージあんま入んないじゃん!」
「コイツ……!」
ピキリとこめかみがひくついた。落ち着け落ち着け。いつもの事、いつもの事。
「しゃぶしゃぶがいいんだろ?ここらでしゃぶしゃぶ食べれるのココぐらいだぞ。それとも何か?今から店変えて焼肉でも行くか?」
「ヤダしゃぶしゃぶ食う」
「だったらつべこべ言うなアホ」
「だったらこの1番高いコース。黒毛和牛のこれ」
カズが指し示したメニューは店で1番高くて全ての料理が食べ放題の最上級コースプランである。
2人合わせて丁度、諭吉が1人ぐらい。とはいえだ。学生の身分で1回の食費で諭吉1人が吹き飛ぶのは、かなりの痛手である。なんだってら1ヶ月の食費に匹敵する。痛い。とても財布に痛い。
「あと単品頼む」
「おい待てカズ。この1番高いのなら単品メニューも全部食べ放題だぞ」
「だから?」
「だからじゃねぇよコノヤロウ」
「僕はサツキが苦しむ顔が見たいんだよ!それぐらい分かれよな!」
「奇遇だなカズぅ!俺もカズが苦しむ顔が見たいぞ!」
「ふぅん?僕に逆らおうって言うの?今日は1日サツキは僕の財布だよね?そういう約束でしょ?それを破るんだ、へぇー」
「うぐ、ぐぐぐぐぐ……か、カズさん……そこをなんとかなりませんかねぇ……?」
「カズさん?様、でしょ、様。カズ様お願いします許してくださいって土下座しよ?そうしたら考えてあげてもいいかなー」
「カズ様……お願いします……許してください」
すっとテーブルから横にズレて俺は素直に土下座した。
すかさずパシャパシャとシャッター音が鳴り響く。カズがスマホのカメラ機能で俺の姿を撮影しているのだろう。
「ぶはっ!あはははは!うわぁ惨めぇ!ホントにサツキ土下座してるぅ!えいっ!えいっ!やーい!ざーこ!ざーこ!」
下げた頭の上に何かが乗る感触。おそらくカズの足だ。嬉々とした声と共に俺の頭を容赦なく踏みつけにしてる。
このクソボケボウフラカス虫が……絶対許さねぇからな……あとで絶対わからせてやる……!
◇◇◇
テーブルいっぱいに様々な肉が並んでいる。
アホが調子に乗ってメニューにある奴を片っ端から頼みやがった。ちなみに俺はひとつも注文していない。
到底食い切れる量ではないのだが「お腹空いてるから余裕」と食い切れると信じて疑ってないアホ。
知ってる。これ結局「やっぱ無理食べて」の奴。
今回に限らずこのアホはいつもこうだ。お腹すいてる、今日は食べてないからいけると量多めに買ったり、注文する。そして必ず食いきれない。
いい加減自分の胃のキャパシティを把握して貰いたい。いつも残飯処理をする俺の身になって欲しい。まぁこのアホじゃ無理な話ではあるが。
「はぁーしゃぶしゃぶうまー」
アホ、ご満悦。色んな種類の肉を注文したのにも関わらず、さっきから1番高級そうな黒毛和牛しかしゃぶしゃぶしていない。
「どうしたの?サツキも食べなよ」
「俺はまだいい」
カズに促されるも拒否。かく言う俺はまだ一口も食べていない。下手に食べてテーブルに隙間を作るとアホはその隙間を埋めるように追加の注文をするだろう。アホはこうして肉が並んでいるに悦を見出しているのだ。
「カズ食い切れるのか?残したら罰金だぞ?」
「お腹すいてるし余裕で食い切れるよ!まぁ残しても罰金とか別によくない?僕が払うわけじゃないし」
「うん。俺はよくなくないな」
ここのしゃぶしゃぶ食べ放題。お残しをすると罰金が発生するスタイル。何も考えずに食べればアホの所業で確実にお残しが発生し罰金を支払う事になるだろう。それはいけない罰金なんぞ払ってられない。
アホが満足し、追加注文をしなくなった所からが勝負だ。
そこから俺の残飯処理RTAが始まる。
気合い入れろよ!敵はテーブルいっぱいの肉肉肉ぅ!こんなん食い切れる気はしないが、それでもやらねば罰金だ!罰金なんか払ってられない!なんとしてでも食い切る!
俺は静かに闘志を燃やした。
うん。なんでこんなことになったんだろうね?
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