2#15 物陰から



「ぐぬぬぬぬぬ……」


「うぐぐぐぐぐ……」



影に隠れて兄さんと美春ちゃんの様子を唸りながら観察する怪しい女子生徒が2人。


何を隠そう、兄さんの義妹嫁である、私、久保涼花と兄さんのダッチワイフである白井聖歌先輩であった。


今にして思えばいろいろとツッコミどころが満載である超理論で生徒会長に上手いこと丸め込まれた私達は兄さんに日替わりで制裁をくわえることになった。本日はその2日目で担当は美春ちゃんであった。


担当日の担当者以外は兄さんに手出し禁止という取り決めを行った訳ではあるが、やはり自分の義兄夫に何をしてるのかは気になる。


昨日は日曜ということで家で大人しくしていたわけではあったが、今日は月曜日で学校。


そして朝から「首輪で繋がれて喜ぶ変態が出た」という噂を耳にして「あっ、それ犯人は美春ちゃんだ」と察して、気になり、こうして様子を観察に来たのだが、案の定と言うべきか犯人はやはり美春ちゃんだった。


そして、既にその2人を物陰から様子を伺っている白井先輩を発見、合流したわけである。



「ぐぬぅ……ぐぬぬぅ……ぐぬぅぬぅ」


「白井先輩、ぐぬぐぬうるさいですよ」


「ぐぬ!ぐぬぬぬぬぬ!ぐぬぐぬ!」



おいたわしや。白井先輩は美春ちゃんが兄さんを好き勝手するのを目の当たりにして嫉妬と悔しさのあまり人の言葉を忘れつつありますね、これ。



「もう、しっかりしてください白井先輩。そんなんじゃ自分の担当の日まで持ちませんよ?白井先輩の担当最終日なんですから」


「ぐぬぅ……思ったよりキツいです……」


「そんなにキツいなら見なきゃいいじゃないですか」


「そ、それはそうなんですけど……でもやっぱり気になるじゃないですか……それに接することが出来なくてもなるべく皐月くんの近くに居たいって言いますか……だって私は今週平日は皐月くんにほぼ接触禁止な訳ですし……ぐぬぅ……私の担当の土曜日が待ち遠しいです……」


「まぁ、その気持ちは大いに分かりますが」


「あっ……そんな!さ、皐月くんをイスにするなんて……!ぐぬっ!」


「あー……美春ちゃんもよくやりますねぇ……」


「……す、涼花さんは意外と平気そうですね」


「そうですか?そんなことも無いですよ?こう見えて腸は煮えくり返ってますよ?」


「そ、そうなんですか?」


「そうですよ。今すぐにでも美春ちゃんを殴り倒して兄さんを奪取したいですね」


「あ、分かります分かります。私もこんなことを考えてはイケないとは思ってるんですが、皐月くんが私以外の女の人と一緒に居るところを見るとウガーってなります!」


「へー……白井聖歌でも、そういう事を思うんですね」



この白井聖歌という兄さんに擦り寄るメス牛ダッチワイフは校内でも有名な存在だ。その圧倒的な美貌と誰に対して分け隔てなく優しい性格から聖女様なんて呼ばれているのは周知の事実。


だからこそ何故そんな聖女様が兄さんにこれほどまでに入れ込んでいるのかという疑問はある。


そして、その聖女様をここまで骨抜きの釘付けのぐぬぬ女に変えてしまう兄さんは我が義兄夫ながら末恐ろしい。まぁ私の義兄夫ですから当然と言えば当然ですが。


兄さん平凡を装ってハーレムラブコメ主人公みたいにメスを誑かしますからね。


はぁ、もうマジ無理。さっさと結婚して私だけのモノにしよ。



「その……涼花さんは皐月くんの妹なんですよね?」


「そうですが?」


「そ、それなのに涼花さんは……皐月くんと関係なんですよね?」


「そうですね。私と兄さんは関係ですよ。私と兄さんは兄妹ではありますが、そもそも血は繋がってませんし」


「あっ……そうだったんですか……それなら別にいいんですかね?」


「はい。私と兄さんの関係にはなんの問題もありません」


「なるほど……」


(これはつまりやっぱり涼花さんも皐月くんが自分に気持ちが無いと知りながら好きすぎて我慢できずに催眠アプリを使って皐月くんとしてしまったということですね)


「そういう白井先輩も兄さんと関係なんですよね?」


「えーっと……その……」


「端的に言って白井先輩も兄さんとシたんですよね?」


「うっ……そうですね……はい……私は皐月くんと……しました……」


「そうですか」



やっぱりこのメス牛め。兄さんに催眠アプリを使って手を出していましたか……まぁ、もうヤってしまっているなら仕方ないですか。今更騒いでもどうしようも無いですし。結局、白井先輩がいくら頑張った所で兄さんのダッチワイフ以上にはなれませんしね。



(いずれは皐月くんとの関係を断たせてみせます)

(いずれは兄さんの事すっぱり諦めさせます)



お互いはお互いに内心を知らず、同じ様な事を思っているとは、この時の私はまだ気が付かないのでした。


それはともかく。



「あっ、矢田さんが皐月くんのお尻叩き始めました……!」


「うぐ……美春ちゃん……こんな公衆の面前でなんて事を……!」


「あれは流石に酷いですよ!」


「そうですか?わりとよくありますよ」


「そ、そうなんですか……?皐月くんと矢田さんの関係って一体……」


「ただの幼なじみでそれ以上でもそれ以下でも無いですよ。まぁでも明らかに美春ちゃんは兄さんの事が好きですけどね」


「そうですよねぇ……矢田さん皐月くん一筋ですよね……」


「美春ちゃん、昔は可愛げもあったんですが、最近はちょっとおかしいんですよ」


「おかしいですか?」


「はい。なんと言いますか……兄さんを虐めて興奮してる節が……」


「そ、それは……その……皐月くん大丈夫でしょうか?」


「多分、大丈夫だとは思いますが……何かのキッカケに暴走する可能性もありそうではあります」









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