2#10 重なり



こうして俺は鈴木にいろいろしたが、鈴木と恋仲という訳では無い。


それにしては今こうして裸で一緒に風呂入ってるし、何度もちゅっちゅっしてしまっているし、なんだったらもっとアレなことを事後。


こうなったらもう鈴木が俺の事を好きなのは確実だろう。ワンチャン、日本とアメリカのハーフ美少女的な激しめのスキンシップという可能性も否めないが、鈴木は日本生まれ日本育ち、そういったアメリカンなコミュニケーションは身についていないはず。


鈴木は俺の事を好き。ならば俺はどうなのか?


正直、鈴木に対してまず出てくる感想はおっかないである。巷で様々な逸話を残すヤンキー火之迦具土神に多少なりとも恐怖は抱いている。


だが現実問題、こうして一緒に湯船に浸かっている鈴木にそんな感想が出てくるかと言えば、否である。


ただの少しとんがった可愛い後輩の女子でしかない。


それに好かれている事は純粋に嬉しく思う。


そうしてそんな鈴木と激しめの行為(本番無し)をなし崩し的にしてしまった事で、俺の中で鈴木に対する愛おしい気持ちが芽生え初めている。


鈴木の事めっちゃ好き。


となれば男としてしっかりと鈴木にしてしまった事の責任をとらねばなるまい。



「鈴木、俺は誰とも付き合うつもりは無いし。告白されたとしても全部断る」



そんな気持ちとは裏腹に俺の口からはそんな言葉が出ていた。


何故?分からない。分からないけど、俺はこう言わなければならない気がした。



「…………えっ?」



唖然と俺を見つめる鈴木の表情が俺の脳裏に焼き付いた。




◇◇◇




[催眠アプリver.2 No.006の起動確認 監視モードに移行します]



スマートフォンに届いた通知を見てボクは口元を歪めた。



おやおや、どうやら鈴木火之迦具土神はまた催眠アプリを使ってしまったようだね。これは煽った甲斐が有るというものだ。


あれだけの啖呵を切っていたというのにも関わらず、こうして誘惑に負けて使ってしまうとは、なんとも情けないね。



スマホの画面に映し出されている精神世界での映像は皐月くんの部屋。



あーあ。随分と激しいね鈴木火之迦具土神。これでは人と言うより狂った猿のようだよ。考えればもっと他に使いようもあるだろうに、することしか考えられないのかね。


まぁ、いいさ。催眠アプリをどう使うかはキミら次第だ。それをするための道具として使うならば、それはそれで構わない。


しかし、ボクの皐月くんをこうも好き勝手にするとは現実で無いにしろ不快だ。実に不快だよ。



「…………んっ」



ああ、ああ、ボクの皐月くんがボク以外の女と……。



悔しい。妬ましい。羨ましい。ボクの皐月くんがボク以外の女の相手をしている事への不快感、そして嫉妬が脳裏を埋め尽くす。


ボクのだ。ボクのだぞ。皐月くんはボクだけのモノなのに。なんでなんでどうしてボク以外の他の女としているんだい?許さない。許さないよ。皐月くん。ボクをこんな風にしてしまってキミのことをボクは死ぬまで――いや死んだとしても未来永劫キミのことを許すことは無いだろう。


だからキミはボクとずっと一緒に居てもらう。終わることの無い2人だけの世界で永遠にキミとボクとの2人きりの時間を過ごしてもらう。


これはキミの罪だ。ボクを堕としめたキミの罪だよ皐月くん。


本当にキミという存在は実にタチが悪い。


確かにキミは平々凡々で特に目立つところがない普通の奴ではある。でもだからこそキミと一緒に居るのに不快感は無く。極々自然だ。


そしてキミは長い時間をかけて他者を犯していく。


そこに居ることが普通であって、キミが居なくなると途端に違和感を感じてしまう。


何故、傍にいないのか?とね。


それに気がついた時にはもう手遅れだ。キミから抜け出せなくなってしまっている。どうしようとなく傍に居ない事に耐えられなくなってしまう程に。


もはやキミはボクの身体の1部なんだ。無くなってしまっては生きていけない。失った身体の1部はキミでなくては補うことが出来ない。



タチが悪い。実にタチが悪い男だよ。キミという奴は。



キミもそうなのだろ鈴木火之迦具土神?



画面越しに彼女を見る。



キミも彼と一緒の時間を過ごし、そして心を犯された同類。彼にほだされて抜け出せなくなった哀れな女の1人。


だからこそキミの気持ちは踏みにじってあげよう。


同情はするよ。これが他の男だったらの良かったのにね。だがキミが好きになった男はボクのモノだった。この出会いの不運を呪うといい。


ああ、楽しみだ。







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